第6章「(ま)おうさま」 4-2 魔術王国の野望
「申せ」
「ハッ、有難き幸せ……! 我らフィーデンエルフ、レミンハウエル様が貴国と盟約を結ぶ遥か前より代々お仕えしておりました。レミンハウエル様が倒されたとて、はいそうですかと新たなる魔王に仕えられるものではありません。何卒、仇討の許可と、その支援をいただきたく……厚く、厚く御願い奉りまする!!」
「仇討だと?」
国王が、チラッとシラールと目を合わせた。
「主君の仇を討つと申すか?」
「主君と、我らが同胞のです! 憎きストラめに……異世界の魔王に、我らはほぼ族滅されたに等しく……!!」
確かに、数百人はいたであろうフィーデンエルフは、もはや脱出に成功した22人しかいない。いかにエルフが長命とは云え、老人もいるし、22人では部族として、まさに滅亡したに等しい。たとえこれから何人か子が生まれたとしても、フィーデンエルフとしての文化や生活は、滅びるしかないのだ。
であれば、その22人で最期まで静かに暮らしたほうが良いだろうに……と、ヴァルベゲルは思ったが、
「まあ、良いだろう」
「有難き幸せ!!!!」
「ヴィヒヴァルンの民を巻きこまぬことを条件に、国内で魔王へ戦いを挑むことを許可する。用意するものがあれば、遠慮なく申せ」
「ハハアーッ!!」
床に額づき、三人が深々と礼をした。
フィーデンエルフは、プラコーフィレスが改めてストラに戦いを挑むこととなった。
が、いかにシンバルベリルを所持しているとはいえ、プラコーフィレス一人で、到底勝てるものではない。
レミンハウエルですら勝てなかったのだから。
「死に場所を、求めているのでしょうなあ!」
国王の部屋で、シラールが甲高い声を上げる。
非公式謁見の後、二人で、午後の茶を飲んでいた。
「迷惑な話だが、当て馬にはちょうどよい」
「左様、左様!」
「既に、カルロー村でひと騒動あったようだな」
「はい、既に村にいた自称勇者が何人か、手でハエを掃うかのように掃われたとのこと!」
「やけに、くわしいな」
ヴァルベゲルが、苦笑した。
「いちいち詳細を知らせてくれる親切な者が、魔王の傍らについたか?」
シラールは、笑って答えなかった。
「さて……噴火に備え、あえて南部に人をほとんど住まわせていなかったとはいえ、やはり影響は、少なからずある。フランベルツは、数年は天候が不順であろうし、流民もあるだろう。皇帝から他国への援助を依頼されるだろうし、そうなれば我らの食う分が減る。手っとり早いのは、その分、密かに近隣諸国諸地方から奪うことだが……」
「凶作の畑を奪ったところで、管理や復興が面倒なだけ! ここは、やはり……噴火の混乱に乗じ、新帝国を構築するほうが面白い!」
「そのためには、新魔王に、新しい大魔神なり、大明神なり……なんでもよいのだが……とにかく、新たな統一神にまで成り上がってもらわなくては……」
「左様! まずは……まあ、様子見で、このヴァルンテーゼンに来るまでに、せいぜい魔王としての評判を高めてもらいましょう!」
シラールが、グッと茶碗を傾けた。
「御代わりはいかがですか、先生」
そう涼しく爽やかな声を発したのは、二人の近くで手ずから紅茶を用意している、年のころ25歳前後の背の高い青年だった。
「これは、殿下自ら! 恐れ入ります! ですが、もう年で、便所が近くなりましてな!」
「御爺様は?」
「頂こう」
「はい」
丁寧に茶を淹れる嫡孫を見つめるヴァルベゲルの眼が、期待と慈愛で細くなる。
「殿下には、魔王と共にこのヴィヒヴァルンを天下に押し上げる役を担っていただくことになりますぞ!」
青年、女性が黄色い声を上げそうな笑顔を向け、その目を野望と殺意に光らせながら、
「望むところです、先生」
と、応えた。




