第6章「(ま)おうさま」 3-7 うまくやる
「…………」
静寂が訪れて、ストラがまだ光っている照明魔法の下に佇む。
ややしばらく、ストラはそのまま立ち尽くしていた。
やがて、村人達が様子を伺いに戻って来た。
「これはまた……それほどハデではないと云うたが、充分にハデだわ」
ストラが、まだ輝いている照明魔法の下に現れたタケマ=ミヅカに視線を向ける。後ろに、プランタンタン達三人もいる。
(やっぱり……まったく探査不能……何者なの……)
そんなストラを見ながら、タケマ=ミヅカが無遠慮にストラへ近づいた。
「さような顔をするな……今は、敵ではないと申したであろうが」
「信じる根拠はありません」
「御堅い喃……」
タケマ=ミヅカが目を細くして、口を尖らせる。その表情がまったく無垢な少女のようで、
「旦那、こちらの御方が、王都まで御案内してくれるそうでさあ!」
「せっかくだから、ストラさん、御言葉に甘えませんか」
などと、プランタンタン達はすっかり信用している。
(……脳波測定……催眠等をかけられている痕跡は無し……魔力子が動いている痕跡も無し……何かしらの方法で、プランタンタン達を洗脳している可能性……約2%……)
ストラは、初めてその場から動き、タケマ=ミヅカへ近づいた。
「いいでしょう、戦闘を終了します」
タケマ=ミヅカが手を打った。
「決まった、決まった。よしよし。では、次に村の者ども扱いだが……」
見ると、戦いが静かになって、隠れていた村人達が恐る恐る集まっている。みな恐怖に震え、また眼を白黒させてホテルの残骸や、転がる死体を見つめている。そして、村の都合や村人の安全をまったく考えずに魔王に戦いを挑み、無様に負けた勇者たちにブチブチと不平を云いだした。
そこで、タケマ=ミヅカが後ろのプランタンタンとフューヴァにこっそりと、
「よいか、これからは、こういうふうに、うまくやるのだ」
と囁き、ストラ達の前に出るや、村人たちに向かい右手を掲げて、
「さすが魔王様だ! 村に被害が出ぬよう、その場より一歩も動かずにあのバカどもを撃退したぞ!」
「…………」
「その名を讃えよ!! この御方こそ、フィーデ山の火の魔王を倒し、次なる魔王となられた異次元魔王ストラ様なるぞ!!!!」
「う……!?」
村人たちが、わなわなと震えだした。
「このカルローは、異次元魔王様が最初に滞在した村として、記録されるであろう!」
「うわおおおおおおお!!」
突如として、村人たちが歓声を上げ、ストラに駆け寄って群がった。タケマ=ミヅカが、ニヤリと不敵な笑みをもらす。村人らはよってたかってストラの手をとったり、伏し拝んだりし始めたので、プランタンタン達は驚くと同時に感心しきりだった。
「こりゃいってえ……どういうことでやんす???」
「さあな……」
二人は、不思議そうに顔を見合わせた。
「ふん……この国における『魔王』というものの価値を、あの勇者どもは、微塵も知っておらなんだのよ……」
「はあ……」
二人が惚けていると、ペートリューがいたく感心して、
「す、すごいですぅ、タケミカさん!」
「タケマ=ミヅカな」
「タケマズさん!」
「メシマズみたいに云うでない」
そしてストラ、無表情のまま村人たちの歓声に応え、握手しながら、
「プランタンタン」
「へ、へえっ!」
「ホテルの賠償をします。多めに払っておいて」
「へえっ……!」
ホテルの女将や旦那が、驚愕しながら前に出た。
「よ、よろしいんですか!? 魔王様!!」
「はい。支払いは、この者が」
プランタンタンがさっそく女将たちの前に出て、
「ではー~、あの規模の建物一棟ぶんと、設備、それに迷惑料を兼ねやあして……2万5千トンプでいかがでやんしょう」
「にまんごせんんん!?」
前より立派なホテルが建つ。
女将が泣きだして、地面に跪いてストラを拝みだした。
村人たちも、涙を浮かべている。
夜が、明けてきた。




