第6章「(ま)おうさま」 3-6 次元振動
ほぼ同時に、対人プラズマ弾が他の三人の魔術師を直撃。バーラは頭部が爆裂して、下顎から上が消えた。エルステルも腰部に食らい、肉体が上下に分かれてぶっ飛び、地面に転がる。ヴォールンは全長10メートルに近い木の巨人の鎧が完成しかけていたが、プラズマ弾が一撃で胴を貫いた。
「……!」
バラバラになった大量の木片の中で、ヴォールンが起き上がる。胴ではなく、顔の部分にいたので、直撃を免れた。
ヴォールンがまだ立ちこめる爆煙を見やると、再び煙を棚引かせて何かの塊が闇の向こうに飛んだ。アナーゼルかレームスの、どちらかだろう。
「う、うう……!」
流石のヴォールンも恐怖と絶望に震えた。二組の勇者パーティが、忽ちの内に全滅だ。
そして、また、煙の中から何かが飛んできて、ヴォールンの前に落ちた。
防御魔法+60付与の、伝説の鎧ごと胸板を貫かれて即死している、レームスだった。
(な、なんたる強さ……!! これが……魔王……!!!!)
夜風に煙が流れ、まだ魔力の残っている照明魔術がストラを照らした。
やはり、一歩も動いていない。
しかも、あの重連魔術攻撃を受けて、涼しい顔だ。服すら破けていない。
(ど、どんな防御魔法なんだ……!?)
ヴォールンは絶望や恐怖を通り越して、純粋に興味がわいてきた。魔術師としての、純粋な好奇心だ。そう、思わせるほどの現象だった。
ストラの鋼色の眼を凝視し、ヴォールンは身体が動かず、その場に立ち尽くした。
走っていたライードの目の前に、ストラに蹴り飛ばされたアナーゼルが落ちて跳ね上がり、また落ちて滑って止まる。照明魔法が自動的に照らしつけ、ライード達が絶句した。ぐしゃぐしゃにひしゃげた、肉と鎧の塊のようになっていた。戦車にでも、轢き殺されたようだった。
「うわ……!!」
さしもの勇者ライードも、偵察魔法で把握していたストラの細い外見とこの圧倒的な攻撃力が結びつかず、ド肝を抜かれた。まるで、巨人か古竜に張り飛ばされたかのようだ。
「ライード……!」
ルーメナーが、不安げな声を発した。
(魔王の実力を、見誤ったか!?)
顔をしかめ、ライードはそう思ったが、遅い。戦いはもう始まっている。逃げるなら、始まる前だった。それなら、他の任務についたとか、魔王が村にいるなんて知らなかったなどと理由がたつ。
「い……急げ! ここで逃げるわけにはいかんぞ!」
さらに走る速度を上げる。
そして緩いカーブを曲がった先で、複数の照明魔法に照らされて、完全に瓦礫と化したホテルの前に立つストラと、まるで神の前にいるように放心したヴォールンが、見つめあっている(ように見える)ところに遭遇した。
状況が分からず、ライード、
「このまま突進だ! 第四陣展開!」
それは、ライード組の攻撃パターンの一つだ。「型」と云ってもいい。優れたパーティは、必ず何種類もの必勝パターンを確立している。
第四陣は、初手から全力突撃だ。ライードを先頭に、魔術で浮遊しながら高速行動魔術により、超高速行動並の速度で吶喊した。
「うぉおらあああ!」
催眠魔術と肉体強化魔術、さらに格闘化武装付与魔術により、全身武器の格闘超人と化したライードを先頭に、後ろにヘーゲルバッハとルーメナーが高速行動中からの凝縮火炎の矢と超高圧水カッターのダブル攻撃、さらにその両翼から+30付与まで攻撃力アップされた風の剣を振りかざしたグーラントと、同じく防御力+30付与に加え攻撃力も+30付与された魔法の楯をかざしたメルツァントが迫る。メルツァントは、シールドアタックをぶちかます。
それらが、ほぼ同時にストラに直撃した。凝縮された高温火炎の矢と水カッター攻撃は、単独でもそれぞれ大ダメージ必須だが、合わさると猛烈な水蒸気爆発を引き起こす。
グーラントの剣の真空が逆巻き、影響圏内にいたヴォールンが巻きこまれて全身が斜めに四当分された。
「局所的次元壁展開、防御及び迎撃開始」
ストラの位相空間制御プログラムが瞬間的に起動し、次元防御壁が展開。さらに、攻性次元振動を発して、0.001秒単位で次元の狭間が無数に現れては消える。
すなわち、その次元振動に接した物体は、粉微塵にされて異空間に消え去るのだ。
攻防一体の、次元攻撃だった。
次元振特有の音と光が現れ、高速化魔法でストラに突進した五人が、一瞬でかき消えた。




