第6章「(ま)おうさま」 3-5 全て防がれている音
そのライード達、戦いが始まったのは分かっていたが、彼らの戦闘は魔術戦がメインなので、同じ防御・攻撃補助魔法でも「これでもか」というほど何重にもかけるし、レベルも非常に高い詠唱時間のかかるものを使用する。
つまり、準備に時間がかかる。
「よし、いいだろう!」
特にライードは魔術師なのに自ら魔法で戦士化して戦うという変則魔法戦士なので、特に決戦準備には時間がかかった。
じゃあ、ホテルで待機中にかけておけ……と、思われるかもしれないが、あまり戦闘の前にかけておくと、戦闘の途中で効果時間が切れるリスクがある。戦闘の直前にかけるのが、セオリーなのだった。特に重要な決戦前では、尚更だ。
仲間の魔術師二人、ヘーゲルバッハとルーメナー、前衛の戦士二人、グーラントにメルツァントも、準備万端整った。
そこへ、照明魔法を頼りにオルトンが走ってきた。
「ライード様、ラ……ライード様……!」
一瞬警戒し、誰かと思ったら、
「確か、お前は……ウェッソンの仲間の」
ライード達が警戒を解く。
「お早く……早く来てください……! 魔王……魔王に、ウェッソン様もやられて……!」
息せき切って、オルトンが泣きながら説明する。
「ウェッソンが……!?」
「レームスはどうした!?」
ヘーゲルバッハの質問に、オルトン、
「え、あの……」
その時、凄まじい重連魔法攻撃が始まった。
轟音と閃光が幾重にも夜空に轟き、空間を揺るがした。建物の崩れる音も響く。
ライード達は尋常では無い攻撃に驚き、すぐに走った。
「あ……!」
その場に残されたオルトン、やや動揺して目を泳がせていたが、やがて……転がるように走り去って、逃げた。
ワーデラーの得意魔術は、火炎系の魔法だ。引退したとはいえ、魔術の腕は磨いていた。そこを当主であるウェッソンの父親に見こまれ、末子の冒険者家業の「護衛兼目付」に抜擢された。
その勇者ウェッソンが死に、彼も面目が丸つぶれだった。生きて帰るつもりはない。魔力の尽きるまで、ひたすら高圧縮ファイアボールをストラに叩きつけた。
エルステルは、電撃系の専門だ。先ほどの雷撃魔法がノーマルクラスの攻撃だったが、それでも一般兵の10人やそこらは即死させることができる。いま、自身の最大の奥儀で、ライトニング5本分の五重束轟雷攻撃を火球連打に合わせて食らわせた。
バーラは高速の魔法の矢が得意で、しかも最大で20人以上を同時攻撃できる。二人の初手飽和魔術攻撃の第二派として、自分でも初挑戦の、50本ものマジックミサイルを少しずつ構成し空中待機させ、攻撃のタイミングを図っている。
ドルイド魔法のヴォールンも、バーラと同じく第二派攻撃に備える。自身最大の物理攻撃魔法だった。既に、周囲に生えている雑木へ魔法をかけている。ざわざわと木々が動き始め、ヴォールンへその枝葉を絡ませようとした。これは、云うなれば生きた木のパワードスーツだ。木の巨人と化して、ストラを襲う。
轟雷と、十数発の爆裂魔術の後に、すかさずバーラがマジックミサイルを叩きこんだ。矢の一発が、一般兵を確実に殺せる威力がある。それを四方八方から50本だ。
凄まじい音をたてて、連続して魔力の弾ける音がした。
そして漆黒に包まれる田舎村に、凄まじい火柱と稲妻、そして魔力のスパークする光が連続して浮かび上がった。
正直、魔術師たちはその音だけで敗北を悟った。なぜなら、全て防がれている音だからだ。
(いったい、どうやって……!?)
そう思ったとき、ワーデラーの身体を、プラズマ弾が貫いた。穴どころか、細い老人の肉体が木端微塵に爆発四散する。
当然、魔術師たちも厳重な対魔法防御を自らに施していたが、そもそもストラの攻撃は魔法ではないので、意味がない。対物理攻撃魔術も、ストラの対人プラズマ弾の前には効果が無いに等しい。ストラの対人プラズマ攻撃は、対人とは名ばかりで、我々の世界の主力戦車による戦車砲攻撃でもびくともしない重装甲パワードスーツ兵の装甲を余裕で貫通する威力を持っている。
「うおおおりゃああ!」
マジックミサイル重連打に続き、レームスとアナーゼルが両サイドから吶喊、爆煙につっこんだ。レームスは剣先が折れているが、魔法剣なため、攻撃力自体は変わらない。かまわず攻撃する。射程が少し、短くなっただけだ。




