第6章「(ま)おうさま」 3-2 魔王退治
「……!!」
血飛沫をあげ、ベロウが闇にひっくり返った。
「ネズミがネズミを退治したぞ」
ライードの声に、ヘーゲルバッハとルーメナーが苦笑する。
しばらく小走りで進むと、建物の陰から四人にグーラントが合流した。既に術は解かれ、ストラの姿ではない。
「よくやった。上々の出来だ」
ライードの言葉に、グーラントも満足げにうなずく。
すぐに、道の奥に音をたてて燃え上がるホテルが見えた。
「しっかし……やるにしても、やり方ってものがあるだろうに、よりにもよって、なんであんな……」
楯使いのメルツァントが、驚きと呆れが混じった声を出す。
案の定、集まった村人たちが非難轟轟でウェッソンを責めていた。
と……ホテルを焼いていた業火が、一瞬でかき消えた。
火の明かりが消え、暗くなったので、各組の魔術師たちが出している照明魔法の明かりが浮かび上がった。
当然、村人も勇者一行も黙りこみ、驚いてホテルを見上げる。
「……な……なんだ……?」
異様な気配だけが、その場を支配した。
ウェッソンも固唾を飲んでいたが、そこは勇者、無言で仲間たちへ指図。素早く、パーティが展開する。アナーゼルとガーデンナーが槍そして剣を持って前衛に立ち、中央にウェッソン。勇者の後ろに三人の魔術師……ヴォールン、ワーデラー、オルトンが展開した。
村人達もすぐに下がったが、中には空気を読まないヤツがいて、一人の中年男性がウェッソンへの文句を再開した。が、
「おい、あいつを黙らせろ、死ぬぞ」
レームスが近くの村人にそう云い、慌てた数人の村人がすぐにその男を引っ張って後ろに下がらせた。
「な、なんだよ! お前ら、なにすんだ、このままでいいのかよ!」
中年男性はいきり立ってまだ喚いていたが、
「お、おい……あれを見ろ!」
誰かが叫び、見ると、ホテルの入り口に人影が……。
ストラだ。
何事も無かったように、ホテルから現れた。村人達からは暗くてよく見えないが、煤もついていない。
照明魔法が自動で動き、ストラを照らしつける。光が集中し、ストラが白く抜かれたため、みなその表情がよく見えなかった。
ウェッソンが強力な攻撃魔法付与の剣を抜き、切っ先をつきつけた。
「この、無慈悲な魔王め! いかに対立する勇者一行とは云え、よくも年端もいかぬ少年を惨殺できたものだな!」
ストラは全て探知していたが、反論もせず無言だった。
「無言は認知なり! 罪を認めたな、今この場で、我、魔王を成敗せん!」
貴族の子弟らしい勇者の宣言により、衆目環視の中、魔王退治が開始された。
前衛の戦士二人が攻めかかると見せかけて、後方の魔術師が先制。再びワーデラーが火球を放った。
「…バカが!!」
レームスが近くの村人に抱き着き、地面へ伏せた。
至近距離で大爆発がおき、何人かの村人が衝撃でふっとんだ。
悲鳴が起き、人々が逃げ惑う。
これも、みな魔王のせいにされる。
ただし、ウェッソンが勝てば、の話だが……。
「坊ちゃんも、やる時はやるな!」
レームス達も、驚きを隠せぬ。
バックハウスとガーデンナーが、爆煙の中のストラめがけ、必殺の気合で襲いかかった。こんな攻撃で殺れるとは、誰も思っていない。あくまで牽制だ。
しかし……。
ゴシャ! と、ゴキブリをつぶしたような音がし、棚引く煙をまとって、何かの塊が横にぶっ飛んで隣のホテルの壁に激突し、それから地面に落ちた。
ウェッソンは、ストラがバックハウスの槍になぎ倒されたと思った。いかに魔王とは云え、あの細身だ。
が、照明魔法に影を伸ばし、地面に転がっているのは、バックハウスだった。
鎧もひしゃげ、腰から、異様な角度に曲がっている。
鼻口から……いや、全身の鎧の隙間から、大量の血液が噴き出てきた。
転がったまま、微動だにせぬ。
即死だ。
「う……!」




