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第6章「(ま)おうさま」 3-1 魔王だって、おとなしくしてりゃ客

 3

 

 ウェッソン家の元家宰にして家老魔術師だったワーデラー、いきなりホテルの四階めがけて火球を放ったので、レームス達が度肝を抜かれた。


 とたん、四階のワンフロアが全て吹き飛んだほどの爆発が起こった。

 レームス組の驚きは、様々だ。


 同じ魔術師であるバーラとエルステルは、あの「ご隠居」で、単なる坊ちゃん勇者の目付だと思っていたジイさん(62歳は、我々で云うとまだ年金も貰えない高齢者以前の初老という程度だが、この世界ではプラス15歳から20歳程で考えると良い)が、これほどの威力の火球魔術ファイアボールを放ったことに目を見張った。


 レームスとアナーゼルは、

 (こいつら……やりやがった……!)


 と、驚くと同時に喜悦した。先に魔王に手を出してくれたし、村のど真ん中でこんな攻撃魔法を堂々と使ってくれた。これで何かあっても、責任はウェッソン達にある。


 「なんでもいい、いつでも動けるようにしておけ……」


 レームスの言葉に、バーラ、エルステル、アナーゼルの三人がうなずく。村人の避難など、考えもしない。いつでも魔王とウェッソン組の戦いに割って入れるようにしておかなくては。


 (しかし、この魔法……ライード達も気づいた筈だが)

 レームスはそう思ったが、そもそもライードが仕組んだことだ。


 「魔王め、出てこい!! 貴様がこれしきで死ぬなどとは、夢にも思っておらぬわ!!」


 怒りに眼を吊り上げて、ウェッソンが叫ぶ。燃え盛る炎の爆ぜる音と真っ赤な炎の光に、何人もの村人が急いで集まってきた。なによりホテル女将やオーナー、従業員らが唖然として見つめ、固まっている。


 (さて……坊ちゃんよ、どんな口上いいわけをするんだ?)

 レームスが後ろで腕を組んで見守っていると、ウェッソンが、


 「私はホルストンの勇者、ウェッソン!! いまより魔王へ戦いを挑む! これは、従者を無残に殺された、私の正統な復讐でもあるのだ!」


 「そっ、そんなのは、村の外でやってくれや!」

 当然、そういう声は出る。

 「そうだそうだ!」

 「勇者っつったって、村に迷惑かけるんじゃねえ!」


 カチンときてウェッソン、

 「わ、私だって不本意だ! だが、魔王がこのカルローにいるのだぞ!」

 「知ったことか!」

 「魔王だって、おとなしくしてりゃ客だぞ!」

 そう。


 この世界では、「魔王」というのはあくまで「号」であり、魔族の王でもなんでもなく、「とにかくめちゃくちゃ強いヤツ」という認識でしかない。「勇者」の上位版というか。


 また、勇者や、人々が勝手に呼ぶナントカの魔王は単なる異名だが、真の魔王号は正式に魔王を倒した者が前魔王より与えられるしきたり・・・・である。


 その真の魔王が魔族なら人間にとって脅威になる場合もあるだろうが、魔族以外の魔王であれば、むしろ救世主だったり、英雄だったりもする。そういう国は、世界には実際にある。


 つまり、フィーデ山の火の魔王レミンハウエルが死んだ今、新魔王がヴィヒヴァルンの敵かどうかも分からず、魔王退治に大義や正統性があるのかどうかまだ不明なうちに自称勇者が先走って自らの栄誉や報酬のために村人を巻きこんでいるのだ。


 だから、本来であればレームスもウェッソンも、村でストラを退治するのに躊躇していた。


 その均衡を、ライードが策謀によって崩した。

 「ここまでうまくいくとはな」

 ライード組は、笑いが止まらぬ。


 「いつまでも引きこもっていても、逆に怪しまれる。そろそろ、見物に行こうか」


 ライードたちの泊まるホテルでも、騒ぎになりだした。頃合いを見図って、ライード、ヘーゲルバッハ、ルーメナー、それにメルツァントが慌てたふり・・をして暗闇に出た。三人が照明魔法を唱え、周囲を明るくする。


 (……なんだ、一人、足りないぞ……?)

 物陰より見張っていたベロウが、素早く気づいた。


 (誰だ……いないのは、女戦士か……? 名前は、グーラントだな……なんで、いない……? まさか……ウェッソンの仲間を襲ったのは……!?)


 そのベロウの足元に、ライードの偵察魔法であるネズミがいた。

 さすがもベロウも、これには気づかぬ。

 ベロウが急ぎ、その場を離れた。レームスに報告しなくては。


 と、ベロウの足元のネズミがいきなり狼ほどにも巨大になり、ベロウの喉元に鋭い前歯を突き立てた。

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