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第6章「(ま)おうさま」 2-6 復讐権

 呆れ果てたのは、ストラに化けているグーラントだ。

 (あいつ……自分の情夫イロを見捨てて逃げやがった……とんだ勇者様だよ……)


 ウェッソンに続いて建物に入ろうと伸ばしたミレスの右手を、肘から上あたりでグーラントが真空を纏う魔法の剣で音もなく切断したのだ。


 倒れるように地面へ座りこんだまま、痛みと出血と衝撃で声も無く泣きながら呻いているミレスの髪を掴んで、グーラント、


 「運が無かったね、ボク」

 喉から大根でも切るように首を落とした。



 息せき切ってウェッソンとヴォールンが小屋まで来るのに、我々で云う15分ほどだったろう。村はずれとは云え、この冒険者向けのホテル街自体が村の中心から外れているので、それほどホテルから離れているわけではない。


 ヴォールンがランタンを掲げていたが、到着するや照明の魔術を放つ。

 浮かび上がったのは、ミレスの生首を持つストラ……に変身したグーラントだった。


 「……?」

 ヴォールンは少し違和感を感じたが、もう勇者が恐慌状態だ。

 「ウオオ、ああああ!! 貴ッ様ああああ!!」

 「ま、待て……!」

 護身用の探検を抜きはらい、構えて、もうストラに飛びかかっている。


 そんなウェッソンへミレスの首を投げつけ、脱兎のごとくグーラントが逃げた。

 ヴォールンがグーラントを追おうとしたが、

 「追うな! ヴォーリィ……もういい!」

 「アーレル……」

 幼馴染のヴォールンは、唯一、ウェッソンを名前で呼ぶ。


 「魔王退治以前に、これは正当な復讐だ! 宿へ戻り……みなを臨戦態勢に! 朝までにケリをつける! 魔王がいなければ、あの従者どもを皆殺しにする! バックハウスを使者として、レームスにも伝えろ! 手出し無用とな!」


 「わ……分かった」

 ヴォールンが、一足先にホテルへ戻り、他のメンバーに事の次第を伝えた。

 みな、色々な意味でショックを受けたが、特に、

 「ミレスが死んだくらいで復讐……?」

 「決闘ってことでしょ?」

 「うん……」

 「なんで?」

 「さあ……」


 ウェッソンとミレスの事情・・を知らぬ女性二人……ガーデンナーとオルトンは、意味が分からなかった。


 が、とにかく勇者ウェッソンにいいところ・・・・・を見せるチャンスでもある。休んでいたが、あわてて着替え、装備を整えた。ガーデナーはオルトンに手伝ってもらって鎧を着こみ、急いでホテルの前に出る。既に、バックハウスは使者として隣のホテルへ向かっていた。


 「遅いぞ!!」

 「す、すみません……」

 「まさか、身だしなみなんぞに気を使っていたわけじゃないだろうな!!」

 「そ、そういうわけでは……!」


 怒りの形相に顔を引きつらせながら厭味を忘れぬウェッソンに、二人は少し引いた。


 「行くぞ!!」

 と、行ってもすぐ隣だ。

 ホテルでは、休んでいたところを起こされたレームスが驚愕しつつも、


 「……坊ちゃんが先に魔王を襲ってくれるのなら、勿怪もっけの幸いだ。加勢してもいいし、横から手柄を横取りもできる。急いで、ホテルの女将さんたちを避難させろ!」


 「わかったよ!」


 共に寝ていたバーラがサッと魔術師ローブを着て、日中の労働で疲れ果て、深くねむっていたホテルの人々を急ぎ起こす。


 「ま……まおう? まおう? 逃げる? わた、私どもが?」

 女将たち、寝ぼけて、訳がわからない。


 「なんでもいいから、急いで……! 戦いに巻きこまれて死にたくなかったら!」


 「たたかい……!? なんのですか……!?」

 「いいから、早く……!」

 レームス達も急いで装備を整え、荷物をまとめて外に出た。


 既に、ウェッソン達がホテルの前にいる。照明の魔法が焚かれ、煌々と明るかった。


 「ウェッソン!! どういうわけだ!?」

 いちおう、レームスがわけを訪ねる。


 「あの魔王めが、我らの見習い少年をなぶり殺しに!! 私が責任を持って預かっている子だ、沽券にかかわる!! 復讐権を行使するので、手出しは無用だぞ!!」


 なんのこっちゃ……と、レームスも眉をひそめる。

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