第6章「(ま)おうさま」 2-2 18人目
身を隠しながらストラを尾行していたレームス組の三人、度肝を抜かれる。
「バカか!?」
で、あった。同じ勇者稼業でも、互いに発想や行動が根本から異なる。
当然、ストラはすべて把握している。が、プランタンタン達は、ウェッソン達すら気づかなかった。
「ペートリューさん、王都まで、酒はもつんで?」
「うん、たぶん」
「ホントかよ、少しは飲む量、減らせよな」
などと、和気あいあいと新たな旅の始まりを楽しんでいる。
村人たちの朝は早く、ホテル街を抜けて表通りに出ると、忙しく行き来する村民が増えた。その中で、エルフを連れたストラ達は少し目立ったが、もう旅立つ様子なので誰も気にしない。
むしろ、その後ろをゾロゾロとつかず離れずで歩くウェッソン達のほうが目立った。彼らの滞在も10日ほどになっており、顔は知らなくもない、といったほどで、ついに魔王退治に出発か? という顔と、噂によるとフィーデ山の魔王は退治され、そのために山が噴火したらしいので、ホルストンに帰るのか? という顔が入り混じっている。
そのまま村外れまで来て、本街道に向けて田園地帯の中の細い村道を行こうとした矢先……。
道端の石に腰かけていた小柄な女性がふらりと立ち上がり、道の真ん中まで出て、ストラ達の前に立ちふさがった。
「?」
プランタンタンと連れだって先を歩いていたフューヴァが、眉をひそめる。
と、いうのも、女性の姿が見慣れない、この国では……いや、フランベルツでも異様なものだったからだ。
ジャケットのような上着こそ王国の人々が着ているものに近いが、その下の着物はまさに前合わせの着物状で、帝国の一般人が着るシャツ状の頭貫衣ではない。しかも動きやすいパンツルック(実際は軽衫袴)で、腰のベルト状の太い帯に短い片刃の剣を挟んでいる。女剣士だ。
そもそも、長い黒髪を後ろでひっつめ、そのクリッとしているがあえてきゅっと細く四人を見つめる目は黒に近い濃い茶色であり、鼻筋も通ってはいるもののかなり低い。帝国広しと云えども、帝都にレアなコミュニティを作っている程度の、完全な異邦人だった。
「どこの国の人間だ?」
フューヴァがそう云い、ペートリューが固まっていたので、
「おい!」
ペートリュー、あわてて訳す。
小柄な女はニヤッと笑ったまま無言だったので、フューヴァがカチンときて、
「何の用だ? 用が無いならどけよ!」
「用ならある」
女が、低い声でフランベルツ語を話した。
「なんだ、言葉が通じるのかよ! ふざけんな!」
「ただし、そちらの新魔王に、な」
ギョッとして、三人がストラを見やった。そして、二度、ギョッとする。珍しく、ストラが厳しい表情で女を凝視していたからだ。さらに、
「下がって」
「ホイ来た下がるでやんす!」
プランタンタンがストラの馬を引いて、真っ先に下がった。もちろん、ペートリューとフューヴァも遠慮なく下がる。
女と、ストラが対峙した。
その様子を、後ろを歩いていたウェッソン達と、さらに少し離れて尾行していたエルステル達も確認した。
「……誰だ?」
「どこの冒険者だ?」
「抜け駆けか?」
「それにしたって……一人で!?」
「他に仲間が隠れてるんじゃないの?」
等と、ヒソヒソするのが精一杯だ。
つまり、彼らにとってもこの女はこれまでまったく見たことがなかったことを意味する。
加えて、
(……18人目……!! 信じられない……! これまで、全く未探知……しかも、今もあらゆる探査波が素通りしている……探査不能……完全に未知の存在……)
この世界にあって、ストラにとって完全に未知の存在なのは魔力子(仮称)である。
ストラが探査法を変え、魔力子に波長を合わせる。
それも、魔術師などを把握する通常レベル探査ではなく、高濃度シンバルベリルを探るときの極深層探査だ。




