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第6章「(ま)おうさま」 2-1 いま、出る

 ペートリューとプランタンタンがいったん四階に戻ったのを確認するや、大急ぎでレームスへ知らせる。


 「なんだって!? 昼過ぎ!? 今日のか!?」

 流石のレームスも、目を丸くした。

 「は、速すぎる……! まさか、感づかれたか……!?」


 仲間たちも、言葉が無い。明日の夜に、ベロウが村の一角に火を放ち、村人を適当に襲って魔王ストラのせいにする手筈だった。そして、間髪入れずに翌日の朝一番に四階を強襲、ウェッソンやライードを出し抜いて退治を行う予定だったのだ。タイミングが良すぎる。感づかれたと判断するのが妥当だ。


 「どうする!? 追うのかい!?」

 バーラの言葉にレームス、


 「当たり前だ!! が……村を出るまでは手出しはできん。魔王が村を焼きつくしてくれるのなら、話は別だが……そう都合よくいくまい。他の勇者供の眼もある」


 つまり、平然と村人を巻き添えにして魔王退治を挑むのは、品行方正が建前の「勇者」として都合が悪いのだ。


 「ままならないな……!」

 だが、それをうまくやる・・・・・のも勇者の器量だった。


 「とにかく、同じホテルにいるのは僥倖だ。他の連中に気取られるな。急いで出発と襲撃の準備をしろ。後をつけ、街道で襲撃するぞ」


 仲間たちが、無言でうなずいた。

 ……と、いうやりとり・・・・も、当然ストラに筒抜けであった。


 いつものように腕を組んで窓際に立ち、ぼんやりと外を見て村中を常時三次元探査しているストラに、プランタンタン、


 「旦那、あっしらの準備は終わりやあした。ペートリューさんの酒も、いつも通り馬に括りつけてありやあす。出立まで、ちょいとお待ちを」


 「準備できたの?」


 「ええ、フューヴァさんとペートリューさんが馬のところから戻ってきたら、いつでも」


 「じゃ、いま・・行こう」

 「え、いま・・ですかい?」

 昼過ぎまで、我々で云うと、あと一時間半ほどある。

 「だめ?」

 「い、いや、ダメじゃねえでやんす」


 ストラがもう部屋を出たので、あわててプランタンタン、荷物を抱えて後ろに続く。

 「女将さあん、すいやせん、旦那が、いま出るっつうんで、もう御暇おいとましまっせ」


 プランタンタンがカウンター越しについフランベルツ語でそう云い、しまったと思っていると、ストラが、出てきた女将にヴィヒヴァルン南部語で同じことを云った。


 女将は、同じヴィヒヴァルン語でも、王都周辺北部語である共通語ではなく南部語だったので驚きつつも、


 「あ……ああ、そうですか、御名残り惜しいですが……」

 見送りに馬屋まで出てきた。


 (さっすが旦那、いつのまにやらここの言葉まで……こりゃ、ペートリューさんがお払い箱になるのも時間の問題でやんす)


 プランタンはそう思いつつ、どうしたのかときょとん・・・・としているフューヴァとペートリューに説明した。


 「そうですか、もう準備はできてますんで、いつでもいいですよ」


 フューヴァがそう云い、毛長馬を引いた。ペートリューの馬には、いつもの通り尻のほうにワインの小樽が四つ、括りつけられている。


 「じゃあ、どうも」

 簡単なヴィヒヴァルン語でそう云い、フューヴァが手を振って女将へ礼をした。


 そのまま、馬を引いて村の表通りに出る。乗るのは、街道に出てからだ。ここでも、プランタンタンはフューヴァの後ろに二人乗りすることになり、馬は三頭である。


 慌てたのは、レームス達である。

 「もう出た!?」

 部屋の窓から通りを行く四人を確認し、

 「急げ、追え! 打ち合わせ通り二手に分かれろ、街道で襲撃する!」

 「魔王供やつら、ウェッソン達の宿の前を通りますよ!」

 「かまうな、どうせ準備もできていまい!」


 急いでホテルの裏手から出て、レームスとバーラ、エルステルとアナーゼルとベロウの二手に分かれた。レームス達が街道で先回りして待ち伏せし、エルステル達三人が見失わないよう後をつける。連絡は、バーラとエルステルの魔術師同士で行う。


 ところが、ウェッソン達は準備万端、堂々と七人がホテルを出て、ストラ達の後ろを歩き出した。このまま街道で名乗りを上げ、勝負を挑むつもりだった。


 なお、ライード達のホテルとは進む方向が反対で、今のところ現れる気配はない。

 「な、なんだ、ウェッソンども、魔王の後ろをついて歩いてるぞ!?」

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