第6章「(ま)おうさま」 1-3 三組の勇者御一行
帝国中北部から北部、北西部にかけて活躍。魔物退治、盗賊退治、その他、傭兵請負、遺跡探索等で修行と金儲けをする、いわゆる「冒険者」だった。
別に数値化されているわけではないが、比喩表現として皆かなりの高レベルになり、いよいよ最終的な地位と名声と報酬を求め、南に来た。
フィーデ山の火の魔王を倒すために。
その矢先、フィーデ山が大噴火。驚いていると、つい先日、ヴィヒヴァルン王の新しい告知に接した。
「フィーデ山の魔王を倒したヤツが……よりにもよって新らしい魔王になった、とはな……」
昨日の夕刻、その報に接したときは、度肝を抜かれた。魔王を倒した者は、てっきりヴィヒヴァルンの新王か、領地を得て高位貴族にでもなると思っていたのに……まさか、新魔王を名乗るとは。
「ナニを考えてやがるんだ? ソイツ」
「バカじゃねえのか」
彼らの発想では、そう考えるのが自然だった。
「待て待て……オレたちにとっちゃあ、好都合だろ。倒そうと思ってた魔王を倒され……先を越されたと思ってたとたんに、これだからな。このまま、新魔王を倒すんだ!」
レームスの言葉に、仲間たちが決意を新たにする。
そうして、明日にもフィーデ山方面に新魔王探索に出ようかと思っていたところに、ストラ達がやってきたというわけだ。
しかし、どうしてストラが新魔王と分かったのか……?
ヴィヒヴァルン王の告知には、こうあった。
~~ 新魔王:魔法剣士。未知の魔法と、魔法剣の使い手。種族不明ながら、人間に酷似。しかし人間ではないことは確実。ゲーデルエルフと人間二人の従者あり。全員女。魔王号は不詳。フィーデ山の火の魔王より、何らかの号を授けられていると思われる。新たなる魔王号を知った者は、即座に王宮へ報告されたし ~~
既に、ストラの情報はヴィヒヴァルン中央に筒抜けであった。
ヴィヒヴァルンは魔術王国であり、宮廷魔術師にして魔法院院長シラールの「眼」は、王国中に届いている。まして、レミンハウエルとは代々盟約を引き継いできた。シラールもヴァルベゲル8世も、何度もレミンハウエルと会ったことがある。
さて……。
たまたま、レームスと同じように魔王を倒そうと村に来ていた「勇者」が、他に二人いた。
世界に「魔王」は八人いるというが、どこにどのような魔王がいるのかというのは、全く分かっていない。バーレン=リューズ神聖帝国には、少なくとも三人、伝承や噂を含めると五人いるとされた。
その中で、ヴィヒヴァルンで正式に退治を奨励し、その実は魔王の生贄にしていた「フィーデ山の火の魔王」は、ある意味、世界一有名な魔王だった。場所も特定され、いるのが確実だし、実際、何百人という冒険者が魔王に返り討ちに遭っている。
その魔王が倒されたのに、倒した魔王が新魔王となって、しかもノコノコ目の前を歩いているなどというのは、カモネギというレベルではなかった。
のだが、非常に面倒くさいことに、彼ら「勇者御一行様」は、レベルが高ければ高いほど、体面や世間体、評判、名誉を気にした。闇討ち不意打ちは、やるなら絶対にバレないようにする必要があった。冒険者などというのは、民衆の支持率が落ちると、ただの野盗とやっていることは大して変わらないからである。
従って、村に新魔王が現れ、同じ宿に泊まったからといって、単純にラッキーというわけでもない。
どこでどう倒すか。
それが、大問題だ。
できれば、魔王がこの村を襲ってくれると非常に助かる。むしろ、そう仕向けるのも冒険者の「ウデ」と云えた。
「まして、いま、この村には魔王退治の『勇者様』が他に二人もいやがるからな」
レームスが、皮肉に顔を歪めた。
つまり、勇者御一行が三組いるというわけだ。ちょうどホテルが三軒あるので、それぞれ滞在している。
ストラと同じホテルに彼ら五人、隣のホテルにい七人、少し離れたところのホテルに五人の勇者一行がいた。
その合計17人が、ストラの探査した兵士、魔術師、その他の全員だった。
三組が、村に滞在しながら情報を収集し、フィーデ山へ向かおうとしていた矢先の、レミンハウエルの死と新魔王の誕生だった。
「だけど、本当に新魔王が向こうからやって来てくれるとはなあ」
そうつぶやいたのは魔術師エルステルだ。その他、女魔術師のバーラ、見るからに荒くれっぽい戦士アナーゼル、そして、これも見るからに情報屋、盗賊、暗殺者といった雰囲気の斜に構える中肉の男、ベロウだった。
「今夜にでも、殺っちまいますか?」




