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第6章「(ま)おうさま」 1-2 勇者レームス

 「なんだ……感じ悪いな……行きましょう、ストラさん」


 フューヴァがストラを誘導し、四人はその場を去った。男が太い腕を組み、そんな四人を見つめ続けた。


 宿場ほどではないが、カルローは田舎にしては大きな宿が三軒もあり、最大で3 ~40人は宿泊できる規模だった。


 (探査した17人、全部この一角にいる)

 ストラがいつもの半眼で、ぼんやりと宿街の狭い通りを見つめた。

 40人は泊まることのできる宿街に総勢で17人なので、それぞれ宿は空いていた。

 「いらっしゃまし……まあまあ、どこを通ってこられたんですか?」

 四人の荒れ果てた姿に、宿の女将が驚いた。


 「いやまあ、ちょっと……その、あの、お、王都まで行きたいので……その、身なりや持ち物を整えたいんです。あ! あと、あと、醸造所ってどこにありますか?」


 ペートリューの問いに、女将は目を丸くした。

 「醸造所? 酒の買付ですか?」

 「ええ、まあ……」

 「へえ……?」

 身なりと言動に差異がありすぎて、女将も眉をひそめざるを得ない。

 と、こういときは金で解決とばかりに、後ろからプランタンタンが口添えした。


 「ペートリューさん、多めに御足おあしを払っておあげなせえ。と云っても、いつぞやの田舎村のワインみてえに、10倍も20倍も出すのは余計怪しまれて逆効果でやんす!」


 「え? え? あ、ええ……うん、うん」

 ペートリューがたちまち汗だくになり、ガサゴソと上着をまさぐって、


 「あ、あのあのあ、あの、あの、これ、やど、宿代と、その、いろいろ、お教えてもらいたいぶぶぶんですぅ」


 マンシューアル金粒貨幣を二粒、出した。

 それを見てプランタンタン、


 「二つじゃ多すぎでやんす! それは、フランベルツで一つ800トンプはするんで!」


 「え……そうなの?」


 ペートリュー、全く分かっていない。この規模の村の宿で四人で1,600トンプとなると、豪遊しながら一か月は滞在できる。


 それはそうと、初めて見る貨幣に女将はビックリして、

 「え!? これ……どこの金貨だい?」

 「マ、マンシューアルです」

 「マンシューアル!? あんたたち、マンシューアルから来たの!?」


 女将の大声に、ロビーにいた数人の老若男女が、鋭い視線だけをカウンター前の四人に向ける。


 「買付か何かかい? フランベルツ人だろ?」

 「ええ、まあ、その」

 「そういや、フランベルツとマンシューアルって、戦争してなかったかい?」

 「ええ、まあ、その」

 「フィーデ山が爆発したようどけど、大丈夫だったのかい?」

 「ええ、まあ……そのあのその」


 答えようとすると矢継ぎ早に質問されるので、ペートリューは真っ赤な顔でたじろぐだけだった。後ろでフューヴァとプランタンタンがもどかしそうにしているが、まだそこまで言葉が分からぬのでどうしようもない。


 「とにかく、部屋で休みなよ……ワインの醸造所は二軒あるから、あとで教えてあげる。湯も浴びれるからね……おい、こちらの方々を、いちばんいい部屋にお通しして! 四階の大部屋にね!」


 宿の女給が現れ、四人へ丁寧に礼をした。

 「旅に必要な物は、遠慮なく申し伝えてちょうだいね! 何でも用意するから!」

 女将がそう云ってくれ、ペートリューはホッとした。


 四人がロビーを横切って階段へ向かい、上がってゆくまで、ロビーにいた五人の男女は視線を離さなかった。


 そして、年のころ20代後半の魔術師ローブで、黒に近い濃い茶髪の女が、ボソリと、

 「……アレ・・が、新しい魔王?」

 仲間と思わしき者ども、いっせいに首をひねる。

 「どいつ・・・がだ?」

 「……見たことも無い剣を帯びているのがいた……そいつだろう」

 「なんか……眠そうなツラだったけど……」

 「見た目に惑わされるなよ」


 ソファに深く座り、腕を組んでいた体格の良い30歳半ばの黒髪の男がそう云い、みな、気を引き締めた。


 彼らの話しているのは、ヴィヒヴァルン語ではなかった。帝国中北部の共通言語、ゴトレンドル語だった。


 勇者レームスと、その仲間達だ。

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