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第5章「世の終わりのための四重奏」 8-1 それどころではない

 フィーデ山の「御膝元」であるスルヴェン地方の被害が最も大きかったのは云うまでもないが、フランベルツ全体でも被害は甚大だった。フランベルツの三分の二にあたる土地に火山灰が数センチから数メートルも降り注ぎ、農業へ深刻な打撃を与えた。ガニュメデにも、灰と軽石が数センチほど降った。さらに、天を覆う噴煙は数か月間も太陽を塞ぎ、恐るべき天候不順を引き起こした。その夏は当然の如く冷夏で、火山灰の影響をあまり受けなかった土地でも大凶作となった。そのままでは、フランベルツは絶対に冬を越せなかった。ラグンメータ総督が、本国のマンシューアル藩王国へ緊急援助を申し出て大量の物資が届き、領内各地で「御救い小屋」を開設。人々は、なんとか生き残ったのだった。


 この八年後にフランベルツは正式に藩王国となり、ラグンメータは藩王となったのだが、フランベルツ苦難王とすら呼ばれた。結論から云うと、フランベルツは噴火前の状態には、二度と戻らなかった。藩王となったころのラグンメータは30代前半であったが、心労でやつれ、白髪だらけとなり、老人のような見た目と化していたという。そのまま、苦難王の統治は艱難辛苦を極め、50を待たず10年後に過労と心労で死んだ。


 影響は、ゲーデル山脈にも及んだ。


 噴煙は成層圏にまで達したのだから、ゲーデルの峰々もその火山灰の侵略を受けた。地形や風の影響で山の下ほど積もりはしなかったが、それでもゲーデル山羊の放牧地に厚く灰が降り注いだため、特製の各種牧草の収穫に甚大にして深刻な影響があった。またゲーデル山羊は急激な環境の変化に弱く、バタバタと死んだ。グラルンシャーンを筆頭に、牧場エルフの酋長たちが怒りと衝撃で狂ったように泣きわめいたという。


 ここに、広い意味でプランタンタンの復讐は成就した。


 ヴィヒヴァルン王国でも、南部の草原地帯に数センチから数十センチの火山灰や軽石、拳大の岩石が無数に降り積もった。肥沃な草原・荒野は一面が枯れ草となり、川も埋まり、アデラドマエルフ達の飼っているカスタ牛が、軒並み死んでしまった。


 エルフ達はヴィヒヴァルン王に助けを求めることもできたが、そうはしないでゲーデル山脈の向こう側のホルストン王国に逃げた。平原が山脈を迂回して続いていたからだ。


 そこで、ゲーデル山脈のホルストン側からグステル高原に住むトライレントロール達とひと悶着あった。


 その調停にホルストン王国から兵士が出て、さらにひと悶着。ホルストンとヴィヒヴァルンの外交問題に発展した。


 それに、そもそもヴィヒヴァルンの王宮は、それどころ・・・・・ではなかった。



 「陛下!! 陛下あああ!!!!」


 夕食前の一時、茶を飲みながら寛いでいたヴィヒヴァルン王ヴァルベゲル8世の元へ、宰相を筆頭に重臣たちが転がるように飛んできた。


 が、国王は既に気づいていた。


 雷とは明らかに異なる噴火の大音量が、この百数十キロ離れた王都にまで届いたからだ。


 「……魔王レミンハウエルが……負けたのか……!!」


 69歳になるヴィヒヴァルン国王は、この世界のこの時代では、既に80歳ほどの風格を備えている。幸いにして健康だが、眼や足腰は相当弱っていた。


 「陛下、陛下……!!」

 「うろたえるな……」


 重そうな装束の衣擦れの音を立てながら国王が席を立ち、重臣たちを手で制した。


 「で、誰が魔王を倒した? いま、生贄として向かわせていたのは、どこのなんというやつだったか?」


 「そっそ……それが……!!」

 「?」

 「今は・・、誰も向かわせておりません!」


 重臣たちの後ろから現れたのは、いわゆる宮廷魔術師だ。ヴィヒヴァルンは、王立魔法院を備えているだけあり、帝国でも有数の魔術王国なのである。


 重臣たちが道を開けた真ん中をスタスタと現れたヴァルンテーゼ王立魔法院院長を兼ねるその老人は、シラールといい、当年75歳。まさに王国の生き字引である。若いころより……すなわち魔法院の学生だったころより、当時第3王子であった国王の腹心であり、友人であった。後ろに、魔法院の重鎮をゾロゾロと引き連れていた。背が小さく、魔術師ローブではなく、マオカラーシャツのような上着と太めのパンツに魔法院院長のケープを羽織っている。にこやか・・・・なまん丸の顔、薄いヒゲに禿げ頭と、あまり威厳は感じられない見た目をしていた。むしろ、後ろに引き連れている魔法院の配下の方が、長い髭に長身、あるいは装飾もきらびやかな魔術師ローブの裾を引きずり、大小様々な杖を所持して、いかにも魔術師といった風体だ。

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