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第5章「世の終わりのための四重奏」 7-5 おみやげ

 ストラが、それを無表情のまま半眼で見つめていた。

 が、また、唐突に、

 「これ、おみやげ」

 などと云い、次元反転窓を開いた。

 「ゲェエエエッッ!!」

 気絶せんばかりに、プランタンタンが呻いた。


 草原にぽっかりと開いた四角い空間の向こうにあったのは、フィーデンエルフたちがこれまで略奪し、あるいは交易して溜めこんでいた、山のような金銀財宝だった。


 それを、次元反転法を用いて、本来は各種兵器を格納する秘匿空間にしまってきた。


 「…………ッシシィッシッシシシシシッッシシッシシシシッシイイイイッッヒッヒッヒッッシシシシシィィ~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!」


 プランタンタン、笑いすぎて息が止まり、草原に突っ伏して痙攣し始めた。

 「……おい、しっかりしろ! どんだけ嬉しいんだよ、コイツ!」


 笑いながらもフューヴァが、細い背中を抱えるようにしてプランタンタンを助け起こした。


 「……イヒッ……ヒシッッ……ヒッシシ……シヒィ……ッ……!!」


 プランタンタンは涙を流しながら、ひきつけ・・・・を起こして腹を押さえ続けた。

 「今後、携帯所持しきれない報酬等は、ここに秘匿収納できるから」

 ストラが、次元窓を閉じる。

 また、遠くで大噴火の音が轟いた。


 山体崩壊した頂上から、猛烈な勢いで二度目の超絶的大水蒸気大噴煙が、持続する重低音の地響きと共に天高く突き上がっている。


 気がつけば、小雨のように細かい砂が振ってきた。

 風上にもかかわらず、火山灰がここまで到達したのだ。

 噴煙も雲となって厚く天を覆い、にわかに周辺も夕方めいて暗くなった。


 「ストラさん、行きましょう、埋まっちゃいますよ!」

 ペートリューがそう云い、珍しく先に歩き出す。

 「でも、どこに行くんだよ!?」


 「王都ですよ! 王都ヴァルンテーゼで、魔王様の威厳ってもんを、ボンクラな人間どもに示してやるんですわ!! ゲボハハハハハハハハ!!!!」


 「…………」

 盛り上がっていたプランタンタンとフューヴァ、一気に引いた。

 「な……なんでやんす、ペートリューさん、急に、人が変わったみてえに……」

 「わかんねえけど……なんか、思うとこがあるんだろ?」


 ペートリューにストラが無言で続いたので、二人も頭や肩の火山灰を払いながらその後ろに続いた。


 風に乗って、さらに噴火の四重轟音が轟いている。



 8


 これは、これより未来の話も含むのだが……。


 ヴィヒヴァルンとフランベルツ、それぞれにフィーデ山大噴火の被害の記録が残っている。


 フランベルツ側より見てみよう。


 山体崩壊により、4000メートル級の火山の半分近くの大質量の土砂が周囲に崩れ落ちたのだが、それによってデルエル峠が完全に埋没した。さらに、峠側の山腹から吹き出た大量のマグマがその上に流れ出て、溶岩の厚い層を形成した。峠には駐留するスルヴェン兵と旅人を含めて200人ほどはいたはずだが、もちろん全滅だ。


 30kmほど離れたスルヴェンの街は、イタリアのポンペイと同じく火砕流と火山灰で完全に埋没した。さらに、スルヴェン側の火口より流れ出た溶岩に覆われ、まったく風景が変わった。一面灰色と黒の、死の大地と化した。


 ここも、生存者はいないとされる。

 全滅である。


 トラールの大森林には大小80もの火口が出現し、粘度の低い泥みたいな溶岩が大量に噴出し、森林を焼き尽くすと同時に再び厚い溶岩台地を形成した。膨大な森林地帯が全焼したことによる煙は、噴煙と混じってさらにフランベルツを覆い尽くした。


 スルヴェン地方全体には最低でも数十センチ、最大で5メートルもの火山灰が降り積もり、畑も牧草地も壊滅。湖や川も埋まり、半月もしないうちに人も家畜も死に絶え、火山灰の下に埋もれた。山あいに緑と湖沼の映えた風光明媚にしてフランベルツ伯がこの土地に来る前よりシュベール家が治めていた歴史あるスルヴェンは、月面みたいな無機的な死の風景になってしまったのだった。


 その報に接したシュベールは、ラグンメータやピアーダが止めるのも聴かずスルヴェンへ急ぎ戻り……そのまま行方不明となった。一説には、後発の噴火に巻きこまれたとも、惨状を目の当たりにしその場で自害したともされる。

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