第5章「世の終わりのための四重奏」 7-4 世界征服、神話
「知らん!! そういう盟約らしい! オレたちは逃げる! ヴィヒヴァルンは、もうおしまいだ!」
動揺する馬をなだめつつ、アデラドマエルフ達は一目散にその場を去った。
呆気にとられ、三人が噴火を振り返る。
地形等の関係で、噴煙や溶岩、火砕流は全てスルヴェン方面へ流れているように見えた。
それでも、成層圏近くまで上った噴煙が、ゆっくりと天一杯を覆い始める。急にうす暗くなり、太陽が遮られて寒くなってきた。
「ふ……冬が来るみてえでやんす」
プランタンタンが身震いした。
「ただいま」
いつものことながら、あまりに唐突なので三人が飛び上がる。
「旦那あああああ~~~~! 御無事とは思っていやあしたが、御無事でええ~~~~!」
泣きそうな顔と声で、プランタンタンがストラへすがりついた。
「スッ、スト、ストラさん! ここの平原のエルフ共が、マオウ!? マオウが、どうのこうのと……!」
フューヴァが、身振り手振りも激しく、まくしたてる。
「私が、次の魔王だって云ってた」
「ハ……!?!?!?」
フューヴァ、完全に硬直。
「だれがでやんす?」
プランタンタンが、意外に呑気な声を発した。
「前の魔王が」
「マオウって、あの顔色の変なやつでやんすか?」
「うん」
「旦那が、そのマオウってヤツを倒したんで?」
「うん」
「それが、どうして、山が爆発することになるんで?」
「よくわかんない」
「そうでやんした!」
聞いた自分がバカだったと、プランタンタンが手を叩いた。
「さあ、さあさあさあさあ! 起きちまったことは、仕方もねえことでやんす! これから、どうするか、考えやんしょう! ……ホラ、フューヴァさんもペートリューさんも! しっかりしてくだせえ!!」
と、同じく固まっていたペートリューがやおら背中の荷物を下ろし、酒樽を出すと栓を抜いて持ち上げ、口につけて蒸留酒を一気飲みにした。
そして樽の半分ほども呑み干すや、豪快に口をぬぐい、
「そうですよ! ストラさんが魔王だって云うんなら……あたし達は、魔王の手下じゃないですか!!!! 世の中、支配してやりましょうよ!!!!」
いきなり何を云うかと思ったら、とんでもないことを云いだし、フューヴァが仰天してペートリューを凝視した。
「こ、この世を支配でやんすか!? ゲエエッヒィェエエッッシシシシッシシイイイイ~~~~!! そいつぁあ豪気でやんすううううう~~~~~!」
プランタンタンも、足踏みして狂喜乱舞し始める。
「…………!」
フューヴァはそんなプランタンタンにも、今更ながら呆れはてた。
そして、自らの両頬を何度も叩いて、負けじと発想を転換する。
まともな考えでは、こいつらについてゆけぬ。
(マ、マオウ……マオウってことは……なんかの王様ってことか? ストラさんは、アタシが王様にする前に、自分で王様になったってことか!? そうなんだな!? そうだ、そういうことにしよう!! じゃあ、ハナシは早えや!)
フューヴァもストラへ向かい、
「ストラさん! マ王になったっていうんなら、つっ、次は領地を持ちましょう! そして王国を築いて……領地を広げて、他の王国……いや帝国を……いやいや、いやいやいやいやいや! 世界を征服するんですよ!」
「せかいせええふくぅう!?」
素っ頓狂な声を出したのは、ペートリューだった。びっくりして、フューヴァとプランタンタンがペートリューを見つめた。
「神話みたあい……!」
フューヴァは、そんなペートリューの反応に、異様に気が良くなった。
「神話……? そ、そうさ、神話だ! 神話、神話だよ! そうだそうだ、アタシらで、神話をつくるんだよ!!」
そうして、遠くで連続する噴火音をBGMに、叫んで踊り跳ねだした。
それに釣られ、プランタンタンとペートリューも笑いながら跳びはね始める。
「神話! 神話!!」
「神話でやんす、神話でやんすう!!」




