第5章「世の終わりのための四重奏」 7-3 四重奏
「フランベルツで高名になって、まだ間もないからな」
「フランベルツで?」
エルフの隊長が、怪しんで小首を傾げる。
「で、そのストラとやらは、どこにいるんだ?」
「フィーデ山の洞窟深くで……洞窟のエルフや、なんか強そうなヤツと戦ってる」
「なんだと!?」
精悍だが仮面みたいなエルフ達の表情に、動揺が走った。
「おまえら、洞窟を通ってきたのか!?」
「そうさ。だけど、見るからにヤバい顔色をしたヤツと戦う前に……ストラ様がアタシらを魔法で逃がしてくれたんだ。すぐ行くから、待ってろって云われてね」
「ヤバい顔色!?」
「ああ……青と黒のマダラみたいな……スゲエ奴だったぜ。化粧なのかもしれないが、あれが地の顔色なら、人間じゃないね」
「そりゃあそうだ。そいつは、魔族だ」
「魔族?」
話には聞いていたが、見たことは無かったので、フューヴァが目を丸くする。
「あいつが?」
「しかも……フィーデ山の奥深くに潜む魔族と云うのは……魔王レミンハウエルのことだぞ!?」
「マオウ?」
フューヴァが眉をひそめる。それこそ、知らん。
「なんだよ、マオウって……」
ペートリューやプランタンタンを見たが、二人とも肩をすくめた。
「おまえら、魔王も知らずによく……!」
そこでアデラドマエルフの隊長、息をつき、
「まあいい。そのストラとやら、どれほどの腕前か知らんが、どうせ、魔王の生贄になるだ……」
その瞬間、フィーデ山が大爆発した。
ストラが未然に防いだ超絶巨大カルデラの破局噴火に比べたら、フィーデ山の単独噴火は確かに規模が小さい。
が、それにしたって、この噴火は間違いなく激甚災害レベルだった。
フィーデ山の頂上から三分の一以上……半分近くが、この世の終わりかと思うほどの、とてつもない大爆音と共に山体崩壊を起こして完全に噴き飛んだ。凄まじい量と勢いの超高熱水蒸気と噴煙が、雲を突き抜けて天高く突き上がった。噴煙の中に稲妻が幾筋も走り、膨大な規模の水蒸気がぶっ壊れた高圧水蒸気管めいて高速噴出し、周囲の土砂や岩石を天高く巻き上げた。そして、大きなものでは数トンもある巨大岩石が、雨のように周囲へ降り注いだ。
それだけではない。
恐るべき土石流と火砕流が川のように流れている山腹の両脇二か所から、大量の血飛沫めいて、突如として膨大な量のマグマが噴き上がった。山頂のものとは異質の真っ黒い噴煙も両脇より二筋上がり、ドッカンドッカンと豪快に音をたてて爆発して、地面が揺れた。
さらに、噴火は続いた。
ヴィヒヴァルン側から見て左手に広がるトラールの大森林は、富士の樹海と同じく、かつて噴火して流れ出た溶岩が冷え固まって生じた溶岩台地であるが、そこにまたも複数の火口が出現。連続して粘度の低い溶岩を噴出し、数百メートルにわたってカーテン状に真っ赤な筋が並んだ。
それが周囲の森林を焼き払い始め、巨大な炎柱と真っ黒な煙が立ち上る。
その四か所の巨大噴火音が大気と大地を鳴動させ、まさに、地獄のフタを開けたような、この世の終わりを告げるかのような重低音の四重奏となって一帯に響鳴いた。
「…………!」
あまりの光景に、ペートリューが、その手の水筒を落とした。
「なんッだよ、ありゃあ……おい、まさか、あれもストラさんのしわざか!?」
「そ、そんなの、知らねえでやんす~~!」
三人は逃げるにも逃げられず、四重噴火音とその度に遅れて届く衝撃波に狼狽えるだけだった。
ふと気づくと、アデラドマエルフ達も同じような反応だ。無理もない。が、
「……けた……魔王が……負けたぞ……」
「おい、魔王が負けた!!」
「お前たちの主人が、魔王を倒しやがったんだ!」
口々にそう三人へまくしたてたが、何を云っているのか分からない。
「おい、ペートリュー! なんて云ってるんだ、こいつら!」
「…………」
「ペートリュー! しっかりしろ! こんなん、ストラさんなら当たり前だろ!」
肩を叩かれ、ペートリューが我に返る。エルフ達は非常に興奮し、早口で難儀したが、なんとか訳した。
それを聞いてフューヴァ、
「なんでストラさんがマオウとやらを倒したら、山が爆発するんだよ!?」




