第5章「世の終わりのための四重奏」 7-1 フィーデ山の目覚め
突如、豪快に地面が揺れ、激しい戦闘で緩んでいる岩盤が裂けて、崩れた。空中にいる二人は、揺れには影響を受けなかったが、ドバドバに落ちてくる土砂と岩の塊は別だ。
さらに、地面に巨大な亀裂が走り、その奥深く……地下3000メートルほどまで、一気に裂け目が入った。その真下に、巨大なマグマ溜まりがあった。亀裂によりマグマ溜まりが急減圧され、高熱ガスが真っ赤な光と共に、ストラ達まで吹き上がった。
そして、レミンハウエルが、ガバリとストラに抱き着いた。
とたん、凄まじい重力がかかり、二人が奈落の底の溶岩めがけて真っ逆さまに落ちた。いや、引っ張られた。
落ちながらレミンハウエル、
「私が死ねば、ヴィヒヴァルン家との盟約も御破算になるのだ! 280年前、噴火寸前だったフィーデ山を押さえつけるために、ヴィヒヴァルン家は私と盟約を結んで、生贄を捧げ続けた! 私が死んで、フィーデ山は280年間溜めに溜めた膨大な力を一度に噴出する! 周辺諸国は、否応なく滅亡するのだ! ストラよ、お前がそうさせたのだ! まさに破滅の魔王よ! 異世界より来たりし、大災厄めが!」
「…………」
「異世界より来たりし魔王!! その噴火の中で、私の道連れ攻撃を耐えて見せろ! ハハハ! ハハハハハ……!!」
(これは、何の力……? 重力制御が、ぜんぜん効かない……)
ストラは成す術なく、レミンハウエルと共に巨大なマグマ溜まりへ落ちた。
7
結論から云うと(皮肉なことに)ストラは、帝国を襲う滅亡的な自然災害を未然に防いだ。
ただし、当面のあいだ、と、云わざるをえないが。
魔王号を得て、ストラの戦いは激しさを増す一方となり、その分、この世界は壊れて行くのだから。
レミンハウエルの最後の力でストラが落ちたのは、地下3000メートルの巨大マグマ溜まりだった。その量は、推定で約270K㎥。フィーデ山の大噴火を引き金に、この巨大マグマ溜まりも噴火する可能性は、充分にあった。
もし、この巨大マグマ溜まりが噴火した場合は、九州の縄文文化を滅亡せしめた阿蘇山カルデラの、3倍の規模の巨大カルデラ噴火が起きた。
その破局噴火により、ヴィヒヴァルンの南半分、フランベルツのほぼ全て、マンシューアルの北西部の一部、そしてゲーデル山脈の四分の一ほどがフィーデ山ごと半径数百キロの巨大カルデラの底に陥没、成層圏まで噴出分が噴き上がり、バーレン=リューズ神聖帝国の約三分の一に厚さ数十センチから数メートルの火山灰が堆積して、帝国は食糧難により滅亡は必須であった。
そんな数千Mt級の破壊力を持った熱圧エネルギーを、ストラは次元転換法を用い、広範囲でほぼ同時かつ超短時間で全て吸収した。
それでも、エネルギー総量回復はケタがコンマ4つほど上がっただけだが……準戦闘モード発動には充分だ。
(なお、正式な戦闘モード発動には、最低でもエネルギー総量が小数点以上になる必要がある。)
広範囲に扁平な形で溜まっていた膨大な規模のマグマは、短時間で一気に冷却され、本来であれば地下深くでゆっくりと固まって生成される花崗岩等になるところを、急速冷却で玄武岩や安山岩になっていった。自然界ではあり得ない岩石生成がなされたことになる。
問題は、それとは別にフィーデ山が280年ぶりの大噴火を起こしたことだった。
それは、ストラが落ちたマグマ溜まりとは直接関係が無いマグマだったこと、そしてレミンハウエルの魔術的な機構により本来は280年前に噴火していなければならなかったものを押さえつけていたのが解放されたことにより、防ぐことはできなかった。
従って、ストラが防いだ破局噴火と比較して数万分の一の規模ではあったのだが、周辺諸国に深刻なダメージを与えたのには、変わりなかった。
「ゲーデルノ山エルフ、ナンデココニイルカ?」
馬上より片言のゲーデルエルフ語でそう話すエルフは、ヴィヒヴァルン王国南部に住むアデラドマ草原エルフである。プランタンタン達ゲーデル牧場エルフが山岳放牧民とすると、このアデレ大平原の遊牧民であった。
ヴィヒヴァルン家に仕えているわけではないが、盟約を結び、馬や牧畜産物による些少の租税を納めることと、南部草原地帯の警戒監視の役を担うことで、自治権が許されていた。
その監視任務中に、こんな場所に不釣り合いな三人組を見つけたというわけだ。




