第5章「世の終わりのための四重奏」 6-9 次の魔王
「この世界へ来て、なにをするのだ!? 何をしたいのだ!? この世界……この世界を……」
魔王はそこで、青黒に血走った目をむき、鮮やかな青と黒の斑模様の顔をひきつらせて、息を飲んだ。
「世界を……本当に……破壊しに来た……の、か……!?」
「……そうかも……」
「……!!!! …………!」
愕然として、魂が抜けたようなレミンハウエルを前に、ストラは、どうして自分がそんなことを答えたのか、不思議だった。どういうプログラムに従って、そんなことを口走ったのか。
「フッ……フ、フフ……」
レミンハウエルは、鼻で笑ってしまった。それから眼をつむって大きく深呼吸をし、
「ならば、そうしろ」
一転して澄んだ目をストラへ向けて、そう云った。
「?」
ストラは、レミンハウエルがどういう意図でそう云ったのか分からなかった。
「お前は、きっとこの世界に呼ばれたんだ。で、なくば、世界の均衡を崩すような存在が、そう簡単に現れるはずが無い。偶然と云うのは、そう簡単に起きるものではない。何かの意思が無いと……起きるはずがないのだ。そうだろう? ストラよ。それが、運命というものだ」
「……さあ……」
それは、魔法などというものが存在するこの世界のこの時代の、非人類系人型知的生物の発想だろうか。
「ところで、ストラよ。この世界には、私を含めて八人の『魔王』がいるとされている。と、云うのは……私も全員とは会ったことがなく、話に聴くだけだから、正確なところは分からん。魔王同士、会合があるわけでもないしな」
「…………」
「中には、魔族以外の魔王もいるようだ。人間なのか、エルフなのか、トロールなのか、それ以外なのか……知らんがな」
「……何を云いたいの?」
「何を云いたいか、だって?」
レミンハウエルが、肩をすくめる。
「私を倒したお前は、次の魔王だということだ」
「?」
ストラが、素直に無表情で小首を傾げた。意味が分からない。
「そんな顔をするなよ! あんたが望むと望まないとにかかわらず、必然、そう呼ばれることになるんだから……!」
「……そうなの?」
「諦めるんだね」
「……そう……」
「そこで、だ!」
レミンハウエルが楽し気に顔をほころばせ、
「私が、次なる魔王の称号を考えてやる!」
「別にいい」
「そう云うなよ……!」
レミンハウエルが苦笑しながら、
「いいか、異なる世界より来たりし破滅の魔王だ……異界魔王……それとも、異世界魔王がいいか……? 破滅の魔王ストラというのもいいな……それとも、災厄の魔王というのは、どうだ……?」
踊りか指揮のように両手を振りかざしながら、レミンハウエルが楽しげに語った。そしてストラへ右手を向け、
「なあ、あんた、どれがいい? それとも、他に案があるかい?」
「…………」
ストラは無表情ながら鋼色の目を細め、レミンハウエルを凝視した。
「柄にもなくおしゃべりして、何の時間を稼いでるの?」
レミンハウエルが、ニヤッと笑った。
「他の七人の魔王を全て滅ぼしたものは、大魔王にも魔神にもなると云われている。この世界の、云い伝えさ。何前年……いや、何万年も前からもね。神話の話だよ」
「…………」
「あんた、大魔王になりなよ」
「別にいい」
「どうせヒマなんだろ? この世界に来て……特に、することないんだろ?」
「…………」
「あんたなら、なれるよ」
「別に……」
「ただし、私の最後の罠を乗りこえてからなあ!」




