第5章「世の終わりのための四重奏」 6-7 対高出力テトラパウケナティス構造体兵器戦
「…………」
ほんの数秒の膠着が、何時間にも思えた。
ほとんど同時に、二人とも超高速行動に入った。
7メートルほどの間合いがあったが、0.1秒とかからずぶつかり合う。
ストラが真っ向勝負で一直線に光子の刃を叩きつけるが、レミンハウエルの円盤も両手から放たれ、超高速で……いや、次元を超えて瞬間移動でもしたようにストラへ突き刺さる。
自動でストラは時空歪曲効果による防護壁を展開したが、既に対応策はエーンベルークンが示している。レミンハウエルは瞬時に転移魔法をぶつけ、空間壁を中和した。
そして、二つの超魔力凝縮円盤がそれぞれ直線と弧を描き、ストラを襲った。
「…!」
時間差攻撃に、ストラも対応、正面からの攻撃へ高出力プラズマをぶつけるが効果なし、肘を畳んで切りつけかけていた光子剣を咄嗟に戻し、剣で弾いた。
そこへ、左脇腹にもう一つの円盤が直撃する。
なんと、テトラパウケナティス構造体疑似原子の空間構造を崩し、ストラの脇が抉れた。
瞬時に修復されるが、その分、当然エネルギーが失われる。
二つの円盤が、魔力の糸がついているかのように一直線に戻って、レミンハウエルの両手の動きに合わせてまたストラを襲った。
まさに、超魔力ヨーヨーである。
(私の構造を突き破るなんて……!?)
魔力子も、そこまで凝縮すると空間破砕効果があるということだ。
ヨーヨーを超高速かつ自在に操りつつ、自らも超高速移動して、かつ転送魔法効果を駆使してヨーヨーを空間の隙間に滑りこませて距離と時間を稼ぎつつ、ストラの次元壁を中和した。
対高出力テトラパウケナティス構造体兵器戦としては、完璧だ。
この短期間で、こんな異世界の原始的原住生物が、対テトラパウケナティス構造体兵器戦法を確立するとは、ストラでなくとも驚愕に値した。元世界であれば、戦術論文が書けるだろう。
「どうした、ストラよ! 手が止まっているぞ!?」
レミンハウエルが、ストラめがけて次々にヨーヨーを叩きつけた。
魔力なので電磁バリアは効果が無く、光子バリアもバギバギに突き破られる。かと云って、次元壁楯は即座に中和だ。
防ぐ手立てがなく、ストラは物理的に避けるしかなかった。
だがレミンハウエル、空間転送効果でそれも許さぬ。
ストラの次元壁を中和しつつヨーヨーが瞬間移動し、ストラが超高速で避けた先へ確実に突き刺さって、ザグザグに肉体を切り裂き、削った。
(こ、これは……!!)
「逃げ場」が無い。
「そらそらそらァア!!」
レミンハウエルの猛攻。
なんということか。ストラが、一気に追いこまれた。
かに、思えた、が……。
「そ……!」
レミンハウエルが、動きを止める。
ストラが、消えた。
次の瞬間、左脇腹から胸にかけて激痛が!!
魔族の青黒い血を吹いて、レミンハウエルは苦悶に顔を歪める。
ストラの光子剣が、後ろから貫いたのだ。
だが、魔王の魔力はこの程度の傷は即座に塞ぐ。移動して剣を抜きつつ、たちまち回復した。
が、今度は同時に五か所、全身を貫かれた。
つまり、ストラの光子剣が、五本同時に突き刺さったことになる。
ストラは、剣を五本装備していたのか?
そんなわけはない。
これも、次元歪曲効果の一種だった。
待機潜伏自衛戦闘モードレベル3で使用可能になる位相空間転移制御プログラムは、周囲の空間を歪めるだけではなく、ストラ自身の次元反転、次元歪曲、さらには次元転送を可能にする。
次元窓が開き、プランタンタン達を一瞬で転送したように、ストラを中心とした一定の空間が反転。レミンハウエルのすぐ後ろに、瞬間移動する。いや、見かけは移動しているように見えるが、実際は移動しておらず、空間が反転しているだけだ。量子テレポートよりも、速い。
さらに次元反転複写法で、自身の分身……いや、平行体を五つ作製。五本の光子剣で魔王を貫いた。平行体は、全員が本物であり、理論上はけして同じ世界線には存在できないのだが、特殊なプログラムで位相空間を制御し、極短時間だけ同時存在を可能にしているのだ。




