第5章「世の終わりのための四重奏」 6-5 疑似熱核反応
(この空を歪めて楯とする魔法、転移魔法で相殺できるのでは!?)
直感でそう読んだのだが、これが大当たり。物理的な位相空間制御と、魔術という未知の現象がどのような原理で干渉しあったのかは全く不明だが、事象の結果としてストラに放った転移魔法が空間防御壁を中和して消失せしめた。
「!?」
これには、ストラも驚いた。
次の防御壁を展開する間もなく、ストラの背中に大柄なエーンベルークンが覆いかぶさった。エーンベルークンはストラの腰へ両足をかけて自らの身体を固定、密着させると、その後頭部から脳天、首筋、肩口にかけて魔力のこもったグレーン鋼の剣をメチャクチャに叩きつけた。
が、びくともしない。
(バケモノめが!!!!)
歯を喰いしばり、ストラの髪を掴んでこめかみや頬に逆手で持った小剣を何度も何度も何度も何度も突き立てる。
全く刃が立たないどころか、切っ先が欠けた。
とたん、ストラがエーンベルークンからも魔力を吸収する。
「…………!!!!!!」
エーンベルークンは比喩ではなく、本当に脳天から真っ二つに身体が引き裂かれて死んだと思った。たちまち意識がぶっ飛ぶ。エーンベルークンの胸元、鎖骨の中央あたりに埋めこまれているシンバルベリルが、濃いオレンジ色からヒマワリのような明るい黄色に変色した。
「エンベリィーーッ!!」
右足へ傷を癒す魔術をかけていたプラコーフィレス、回復もそこそこに助太刀に向かおうするが、まだ剣が空間の凹みに咥えられており、動けなかった。
が、剣を捨てると攻撃力が格段に落ちる。
(さっき、エンベリーがどうにかして、ストラの防御魔法を中和してなかったか!?)
治癒魔法に集中していたのと、エーンベルークンの攻撃が一瞬だったので、よく分からなかった。
たまらず、プラコーフィレスが空間に固定された剣を離し、素手でストラに躍りかかる。
「たわけが!! 貴様もやられるだけだ!!」
思念会話で脳内にレミンハウエルの声が響き、プラコーフィレスは急停止した。
見ると、レミンハウエルが逆にストラへ掴みかかっていた。
(う……!)
ストラが、魔王を瞠目する。レミンハウエルは、直接余剰エネルギー回収回路へ強制停止をかけ始めていた。
(すごい……! 魔力子が逆流している……! それで、吸収を阻害、流れを相殺してるんだ……!)
もちろん、どうやって行っているのか、まったく不明だ。
(しかも、生身が生体能力として行うなんて……!?)
レミンハウエルが、苦悶の中にも、ニヤリと不敵な笑みを見せた。
(そもそもが、魔力子依存生命体……魔力子に、耐性があるのかな……?)
先ほど、効果場を中和された時のように、どんどん回収量が減少する。
「なあめるなあよおお!! このフィーデ山の火の魔王ををおおお!!!!」
レミンハウエルの両目が魔力で真紅に輝き、毒々しい青と黒の斑の顔も苦悶から気合に変わった。
ストラを掴む両手に、回転ノコギリめいた魔力の刃が現れ、そのままストラの肩と胸に食いこんだ。
テトラパウケナティス構造体は、これしきの物理攻撃では何の影響もないのだが、魔力子の特性が未知すぎるため油断はできない。
その、瞬間。
ストラが、至近距離で極少量の疑似熱核反応による極小規模核爆発を起こした。
一瞬にして、背中のエーンベルークンはおろか、レミンハウエルも吹き飛んだ。一般的なドーム球場の数倍の体積を持つ巨大地下空間だったが、猛悪的衝撃波が地面や天井を舐め、壁に反射して戻ってきて二重三重に空間を捻じ曲げた。複雑な形状により洞窟内を装飾していた無数の鍾乳石が一掃され、威力がどこにも抜けずに地下に充満、高熱と高圧力で岩盤がひしゃげた。魔物を含め、とても生物が無事な環境ではなかった。
まさに、地下小規模核実験だ。
まだシンバルベリルに余力があり、レミンハウエルとプラコーフィレスは本能で魔力防御を張って、なんとか耐えた。が、意識を失っていたエーンベルークンは無意識の魔力防御が充分ではなく、まず胸部から下と右腕が炭化して砕け、残った胸から上と頭部と右腕も爆轟効果と高圧衝撃波に揉まれてメチャクチャになり、一秒と経たずにほとんどシンバルベリルだけになった。
すなわち、瞬時に肉体が分解し、即死したのである。




