第5章「世の終わりのための四重奏」 5-7 転送ポート
ドアの向こうは狭い部屋になっており、暗かった。照明球が浮かんで照らしつけると、家具もないも無い岩壁の空間で、真ん中にコルネの身長ほどの大きく細長い岩が置いてある。
「……?」
フューヴァやプランタンタンが、不思議そうに観察した。が、どう見てもこの岩しかない。
「これに触ると、いっつも地上に出るんだ。帰りは、また違う岩を触るとここに帰って来る」
魔術的な機構による、一種の転送ポートだろう。
「じゃ、一人ずつね!」
嬉々として、真っ先にコルネが岩のとがった部分を触り、吸いこまれるように掻き消えた。
「マジでいなくなったぞ!」
フューヴァが叫んでストラを見やり、ストラがうなずいたのでそのまま触って消えた。
次にプランタンタン、そしてペートリュー、最後にストラが触る。
短い空間転移に、ストラは一瞬だけプログラムが混乱した。
現状の待機潜伏モードでは、位相空間転移制御プログラムが使えないためだ。
気がつくと、狭範囲三次元探査よりも、視覚がその空間の広さを認識する。
すぐ近くに、コルネを含めた四人もいた。
「……よ、夜なのか?」
フューヴァが、天井に無数に光る星々のきらめきを見上げてつぶやいた。
ストラも見上げたが、
(いや……ここは、屋外ではない……これまでになく広大な、地下空間……!)
では、あの満天の星空は何なのか!?
(おそらく……無数の未知発光生物……)
天井から壁に至るまで、びっしりと光っている。
「もしかして、ここは地上じゃあねえんじゃ?」
空気を嗅ぎ、感覚の鋭敏なプランタンタンも気づいた。その声に、ペートリューがひきつけを起こしたような音を喉から発して、動悸を抑えるため一気に水筒を傾けた。
「おい、このガキ!! どういうこと……」
フューヴァが、コルネへ向かって凄んだが……コルネがいない。
「どこ行きやがった!?」
「あそこ」
見ると、月明かりめいた発光の明かりを頼りに、コルネが懸命に岩場を走っている。
「クソガキ、どこへ行くんだ!!」
フューヴァが追おうとしたが、ストラに止められる。
「連れてきた! 連れてきたよ! 約束どおり、連れてきたよ!! だから! だから僕だけ家に帰して!! 約束だよ!! おーい!! おーーーい!!」
コルネが立ち止まり、泣きながら懸命に叫んだ。
その言葉が、全てを説明している。
「いったい、誰がそんなことを……!」
フューヴァが、憤りに震えた。
「やあやあ、ご苦労さん、上出来だったね、期待以上だったよ」
岩の上に、長い白髪を後ろに結んだ一人のフィーデンエルフが現れる。スレンダーな体つきだが、全身に膨大な魔力をまとっているのが分かった。軽薄な笑みを浮かべているが、光線でも発しそうなほど眼が殺気に光っていた。
プラコーフィレスだ。
コルネが駆け寄った。
瞬間、岩陰より巨大な影が飛び出て、コルネに咬みついた。
ズルズルと身体をもたげ、8メートルはある双頭の大百足……ラルルンリューが姿を現す。
首元に毒牙が突き立ったコルネは、咥え上げられたままビクビクと痙攣していたが、すぐに動かなくなった。
隣の頭もコルネの腰のあたりに牙を突き立て、二つの頭が捩じりながらコルネを引っ張ったので、コルネは腰から両断された。
気がつけば、四人の背後にも鉄仮面のような表情のエルフがいた。フィーデンエルフではない。ゲーデル山岳エルフ。
エーンベルークンだ。
「ようこそ、魔王様の宮殿へ」
プラコーフィレスが、澄んだ声でそう云った。
6
「警告!! 危険!! 想定外の魔力子量を検知! 露出状態の高濃度シンバルベリル反応2! 超高濃度シンバルベリル反応1!! 異常数値を観測!!」
珍しく、ストラが緊張感のある声を出し、三人が硬直する。無意識に三人で手をつなぎ、腕を組んでいた。
プラコーフィレスの後ろの空間……空中に、魔力が凝縮し、隠されていた空間が開いて行く。その中より現れた少年……のような魔族が、ストラを見下ろす格好で凝視した。ペロリ、と真っ青な舌で唇を舐める。




