第5章「世の終わりのための四重奏」 5-6 がっぷり四つ
そのため、ストラは攻撃力を微妙に弱めたプラズマ弾を額の辺りよりチェーンガンめいて連続して発射し、じわじわとキラトプルを下がらせた。キラトプルは、シオマネキのようにハサミの片方が巨大で、もう片方はそうでもない。楯のように使っていた巨大なハサミを破壊され、ギュウギュウと鳴きながら小さいハサミを振りかざすが、とても防御はできない。全身に弾丸をくらいながらも、なんとか耐えているといった様子だった。
しかし、ここで動けなくなるほど攻撃しては本末転倒だ。通路を塞いでしまう。かと云って、反撃を許すほど弱い攻撃でもいけない。ストラは詳細に甲殻外皮特性を探査しつつ、弾丸の威力や当てる場所を微調整した。
ズンズンと進むストラの後ろを四人がつかず離れず進み、ついに丁字路にさしかかった。
「あっ、あそこを右だよ!!」
ストラの明かりに、魔物越しに丁字路を見つけ、コルネが叫んだ。
左へ追いこもうと、ストラが弾丸の方向を変える。
と……キラトプルが、後方に折りたたんでいるコウモリ翼をマントのように前に翳した。
その翼の表面が、なんとプラズマ弾を完璧に反射したものだから、洞窟の天井や壁に当たって爆発した。
「うわあああ!」
散弾のように飛び散った岩石の破片から身を守りながら、フューヴァやプランタンタンが叫んだ。
「……!」
ストラがいったん攻撃を中止した瞬間、コウモリガニが一転、前に出て反撃した。
もう、物理的に「押す」しかない。
ストラも前に出て、キラトプルとがっぷり四つに組んだ。
そのツルハシめいた脚の先端や、小さいほうのハサミでも余裕で人間を殺せる力を持っているが、ストラ相手ではそうもゆかぬ。ストラは、力任せにキラトプルを押しこんだ。超絶スーパーパワーがあるだけでなく、重力制御で圧をかける。
短剣めいて鋭いトゲだらけの真っ白い甲殻にプラズマ弾丸の命中で焦げた跡を無数につけた魔物が、ガクガクと後ろに下がる。下がりながらもストラの胴体を強力に挟み、大顎でストラの脳天に齧りついたが、ストラは意にも介さない。
「す、すげえ! あの人、なんなの!?」
コルネが、驚愕に目を見開いて叫ぶ。
云われた三人も(分かっていたつもりでも)改めて、驚嘆に声も無かった。
「なんなのと云われても……なんなんでやんしょうね……もう、あっしらにとって神様みてえなもんでやんす」
「ちげえねえ……」
それはそうと、照明球が先に行き、四人を誘導する。
ストラから距離を取りつつ、四人は慎重に歩を進めた。ストラは電車道でキラトプルを押し、行きどまりに到達するや、回りこんで無理やり通路の左側へ押しこんだ。
「いまだ!」
フューヴァが叫び、ダッシュしようとするも、照明球が顔の前に浮いてそれを止めた。
とたん、左側へ消えたストラが超絶高圧大放電。魔物を焼き殺す。空気を引き裂く低い連続音とストロボめいた明滅が洞窟内に轟き、四人がすくみあがった。
「……!!」
やがて、意外に美味そうな甲殻類を焼いた香ばしい匂いが漂って、ストラが白煙を棚引かせて現れる。
「もういいよ」
四人の方を向いてそう云うと、そのまま右側に向かって歩いた。
四人は小走りで行き止まりまで進み、おっかなびっくり左側を確認したが、真っ暗でよく見えなかった。ただプランタンタンだけが闇を見通すエルフの眼で、身を縮めた姿で洞窟一杯に固まって死んでいる魔物を認めた。
「プランタンタン!」
フューヴァに云われ、慌てて皆の後ろに続く。
右側へ曲がって少し進むと、岩壁に石造りの枠が嵌めこまれ、古びた木の扉があった。
「いっつも、見張りがいるけど、いない」
コルネが、ソワソワしながら云う。
「開いてるのか?」
不用意にフューヴァがL字型のドアノブに手をかけようとして、ストラが止めた。既に常時三次元探査で、脱走者防止用の罠があるのを確認している。
実際、ストラが手をかけると、鍵穴のようなところから毒針が発射された。
ストラの腹のあたりの服に刺さったが、無視してノブをひねる。鍵がかかっていたが、そのまま音をたててノブを破壊した。
「うわっ」
コルネが、驚いて思わず声を発した。
「すげえ……」
ノブを引っこ抜いたストラを、コルネが瞠目した。




