第5章「世の終わりのための四重奏」 5-4 魔物の餌
「わかんないけど……」
洞窟エルフが、何かしらの術をかけているのは明白だった。
「で、他にも、おまえみたいな、誘拐された奴隷はいるのか?」
「いる」
「助けなくていいのか?」
「どこにどれだけいるか、知らない」
「全部で、何人くらいいるんだよ?」
「わかんない」
本当だろうか……。少なくとも、いま歩いている通路の反対側の、そう遠くないところに部屋が幾つかあって、合計で同じような少年が四人いる。ふだん、気づかないものだろうか?
しかも、ストラの探査は行く先にも同じ奴隷部屋が複数あることを確認している。ただし、こちらの方向の部屋には、誰もいない。
「あ、ここにも部屋があるでやんす!」
さっそく、プランタンタンがストラの照明球の光にその鉄格子を発見した。入念に中を覗いたが、
「……誰もいねえでやんす」
「働かされている時間か?」
フューヴァがコルネに尋ねたが、コルネは無言だった。
「でも、つい最近まで人がいたような感じで。ずっと無人だったようには見えねえでやんす」
プランタンタン、執拗に臭いをかいでそう確信する。
グビリ、とペートリューがいつの間にやら小樽から酒を移した水筒を傾けた。
「おい、何か知らねえか?」
フューヴァが問い詰めるも、
「知らない。早く行こうよ! 早く逃げたいんだ! 助けてくれるんだろ!? エルフや魔物に見つかっちゃうよ!」
コルネの表情が、恐怖にひきつっている。
プランタンタンとフューヴァが、そのあまりに必死の形相に固まった。
(ウ……ウソは云ってねえように思えるが……どうしちまったんだ? いったい、この部屋に何が……!?)
そこでストラが三次元探査で空間記憶を読み取り、直近過去を確認。
「ここには、つい十日ほど前まで、16歳ほどの少年が捕らわれていたようです」
ストラの声にフューヴァ、
「なんだ、お仲間がいたんじゃないか。おい、どこにいるんだ?」
見ると、コルネが瘧めいてガクガクと全身が震えていた。
「お、おい、どうした!?」
フューヴァが驚いて叫ぶが、あまりの汚さに触れぬ。コルネはギュッと眼をつむって歯を食いしばり、声を絞り出した。
「まっ……! 魔物の……魔物のエサにされた……!!」
「…………!!」
さすがに声がない。なんとかフューヴァも声を絞り、
「どっ……どういうことだよ!?」
コルネは、また無言になった。
「…………!」
「おい!」
コルネは頭をかかえ、泣きながら座りこんだ。そのまま、震えが止まらぬ。
途方に暮れ、思わずストラを見やる。
「推定。誘拐された子供たちは、5~10年を生き延びた場合、成長したら、魔物のエサにされる模様」
「なんですって!!」
フューヴァ、驚愕。プランタンタンとペートリューも絶句した。
「おい、魔物のエサやりって、おまえ!」
フューヴァが詰め寄ったが、コルネは声も出さずに泣いているだけだった。
「おい!」
フューヴァの肩を、ペートリューが叩いた。
息を飲んで振り返ったフューヴァに、ペートリューが首を振る。
「そ……」
フューヴァが、ゆっくりと息をついた。
「そうだよ……な……分かるわけ……ねえよな……わ、悪かったよ……」
フューヴァは流石に同情し、
「さ、さあ、これも何かの運命だぜ。おまえだけでも、助かるんなら、よしとしようじゃねえか。さ、その地上に出られる場所まで案内してくれよ。その代わり、魔物やエルフが出たら、この超強いストラさんが、追い払ってくれるぜ!」
「うん……うん……!」




