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第5章「世の終わりのための四重奏」 5-2 奴隷から逃れられる機会

 「じゃあ、ストラさん、その誘拐されたらしいガキがいる部屋に抜けて、そこから脱出しましょう」


 「うん」

 「その、子供はどうするの?」

 「……」


 ペートリューの質問も、もっともだ。人道的見地から云えば、救出するのが妥当だろう。しかし、この世界にそんな見地も発想も無い。


 「ガキなんか、足手まといだぜ。逃げたかったら、勝手についてくるだろうさ」


 これは、この世界での至極一般的かつまとも・・・な発想だ。救出依頼の仕事でも無い限り、助ける義理も義務も必要性も無ければ、こんな状況ではその余裕すら無い。


 「で、やんすね」

 ペートリューは無言だった。


 四人はストラの先導で再び進み出し、また小一時間も進んだころ、ストラが唐突に、


 「ここ」

 何の変哲もない湿った鍾乳洞の岩壁を指さした。


 三人とも身体的及び精神的疲労により、声もなかったが、なんとなく集まってその指の先を見つめる。


 もう、ストラが共鳴振動を行い、岩石をボロボロと崩し始める。力任せに破壊して、向こう側の部屋にいる子供へ危害を加えないためだ。


 面白いように岩が独りでに小砂利となり、岩盤が薄くなると、ストラが手を入れてガバガバと崩した。


 すると薄暗い壁の向こう側の空間が現れた。向こう側の空間からすると、逆に突如として壁が崩れ、照明球の光が眩しく輝いているのだから、


 「……!! なっ、なんだああッッ!?!?」


 変声期前の少年の声がし、ボロに包まれた生き物が動いた。少年の言葉は、フランベルツ語だった。


 「うおっ、流石にせっめえな!」

 真っ先にフューヴァが穴に入り、子供を発見する。

 「家畜小屋よりひでえな」


 天然の洞窟ではなく、明らかに人為的に掘られた狭い部屋だった。人間が一人、横になれる程度の広さで、大きな苔のようなものが敷きつめられ、その真ん中に、巣に眠る何かの動物のようにして丸まっていたもの・・が、驚いてとびあがっていた。岩壁に、小さな蝋燭ロウソクが一本だけ、細々と燈っている。


 「くっせえな、おまえ……」


 洞窟に入ってから、かなり鼻が麻痺していたが、それでも異様な臭気だった。ただ悪臭がするのではなく、独特の臭いだ。この臭いは……。


 「魔物の臭いがするでやんす」


 フューヴァの後ろから入ってきたプランタンタンに、子供が異様なほど恐怖の反応を示し、狭い壁際まで後退あとずさった。


 「魔物の……?」

 フューヴァが、引きつった真っ黒い顔の少年を睨みつけた。

 「こいつ、人間のフリをした魔物なのか!?」

 「いや、この子供は人間」


 ストラも入ってくると、もう部屋は鮨詰すしづめだった。それほど狭い。ストラがそのまま出入り口と思われる頑丈な鉄柵の扉をボキボキと折り、完全に破壊して外に出る。フューヴァが続き、プランタンタンとペートリューも奴隷牢の外に出た。


 出た通路は意外に広く、左右に広がっていた。他にも同じような牢があると思ったが、そこにはその牢しかない。


 「どっちだ?」

 「こっち」

 ストラが歩きだす。ペートリューとフューヴァも続き、

 「行くぞ、プランタンタン!」


 プランタンタンはしかし、まだ牢の奥で壁に張りついている少年を見やって、


 「あっしらは行くでやんす。いいでやんすか……奴隷から逃れられる機会は、一生に一度、あるか無いかでやんすよ。それは、運でやんす。あっしも、運良くその機会をこの手にすることができやあした」


 「……!」

 ピタリと、少年の震えが止まる。

 目の色を変え、プランタンタンに続いた。

 そして、フランベルツ語で先を行くストラ達に向けて、

 「そっちじゃねえ、こっちだよ!」

 「…………」

 ストラを含め、三人が振り向いた。


 「そっちへ行っても、エルフ達のいるところに出るんだ。こっちに、外に出る部屋がある」


 「なんだと、おまえ……本当か!?」

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