第5章「世の終わりのための四重奏」 5-1 閉塞
それから、三時間近く、ひたすら歩いた。
洞窟はひたすら一本道で枝分かれはほぼ無く、あってもすぐに行き止まりだった。全体にゆるやかな坂となって大きく螺旋を描いており、だんだん上昇していた。が、それは歩いてる分にはあまり気づかないほどの傾斜で、ただ、体力だけがじわじわと奪われていった。
ずぶ濡れになった干し肉をかじって休憩しながらゆっくりと進み、時間の感覚も分からなかった。おそらく、地上はそろそろ暗くなっているころだと思った。まだこの地下に迷いこんでから半日経つかどうかだったが、もう一週間くらい潜っているような感覚だった。
「眠くなってきたぜ……」
座りこんだフューヴァが、ガックリと肩を落としてつぶやいた。
プランタンタンはムシムシと音をたてて食欲旺盛に干し肉をかじり、同じくペートリューもゴクゴクゴクゴクとひたすら度の強い蒸留酒の小樽を両手で抱えて傾けていた。
負けてられぬとフューヴァも気合を入れ直し、
「よし、行くか」
率先して立ち上がる。
しかし……。
「……あれっ、ストラの旦那はどこでやんす?」
照明球はあるが、気がつけば確かにストラがいない。
「偵察に向かったのか?」
「さあ……」
まさか、置いてゆかれたのではあるまいな。
三人ともそう思ったが、恐ろしくて声に出せなかった。
「で、でも、照明の魔法がありますし……」
気休めに、ペートリューが震える声で云う。照明の魔法など、術者がいなくなっても魔力が残っている内は勝手に点いている。そのことを知らない二人に対する、本当に気休めだった。
「そ、そうだよな……ハハ……」
フューヴァがまた腰を下ろす。
時計が無いからどうにも時間の感覚が分からず、何時間もそのままのような気がして、胃が痛くなってきた。実際は、15分ほどであったが。
「あっ、帰って来たでやんす!!」
耳と眼の良いプランタンタンが、坂の上の闇を指さして叫んだ。
すぐに、ストラが現れる。
フューヴァとペートリューが驚いたのは、ストラ自身は照明の魔法(と、彼女たちは思っている)を使用せずに、本当に闇の中からひょっこり現れたことだ。
しかし、プランタンタンは最初の出会いから、ストラは(これも闇を見通す魔法と思っている)を使って、完全に闇の中でも眼が視えると思っており、何事もなかったように出迎えた。
「旦那、行く先を調べておくんなすったんでやんすね! どうでやんした?」
「この先は、行き止まりだった」
「えっ」
三人がほぼ同時に声を出す。
「行き止まり!?」
と、いうことは……。
「ととっと、閉じこめられたでやんす!!!!」
この先、20キロほど大きな螺旋の坂が続いており、ストラは空中を浮遊して一気に進んだのだが、洞窟は途中で本当に止まっており、近距離探査では周囲に空洞空間は無く、完全な行き止まりだった。ただし、
「途中で、岩壁の向こうに狭い部屋らしいものがあったよ。そして、その部屋に人間の子供が一人、いた」
「えっ!?」
また、三人同時に声が出る。
「人間のガキですか!?」
なんでまた……という表情で、フューヴァがきょとんとしたが、ペートリューが覚えていた。
「もしかして……エルフが誘拐したという、子供ですかね……」
何の話だ!? とプランタンタンとフューヴァは思ったが、思い出した。スルヴェンの宿屋のオヤジが、そんなようなことを云っていた。
(コイツ……確か、酒が無くなるのまでの日数を数えてたはずなのに……)
感心すると同時に、呆れた。
それはそれとして。
「そ、それは、岩の壁のすぐ反対側なんでやすんか?」
「うん」
「旦那の力で、壁を壊せるほどの?」
「うん」
「そっち側に抜けるしかないでやんしょうね……」
フューヴァもうなずく。




