第5章「世の終わりのための四重奏」 4-11 脱出、カランドルの谷
「クソッ、ペートリューーーッッ!!」
フューヴァが走り出ようとしたが、プランタンタンが止めた。
「あっしらが行っても、何の役にもたたねえでやんす!!」
「だからって見てろってか!!」
「……!!」
プランタンタンは、何も云えなかった。ただ、顔をゆがめる。
すると、ペートリューの背後に、先程ストラの体当たりでぶっとばされた一体が飛んできて降り立った。
ペートリュー、絶望のあまり、そのまま気絶して倒れ伏した。
(まずい……!)
ストラが、洞穴崩落も覚悟して、レベル1モードでの最大火力を発揮。
光子剣の光子球をそのままに、全身から真下へ超絶高灼熱線を発した。
一瞬で摂氏3000℃にもなり、岩盤が融解。溶岩にガドナンが沈む。さらに、その熱を瞬時に吸収。瞬間冷凍した。ガドナンが、そのまま岩に閉じこめられる。まだ生きていたが、魔術的防御の施された甲殻は灼熱と冷凍の温度差による熱応力で物理的にヒビが入り、異様に脆くなっていた。ストラの右手を掴んでいた左手も、ストラが強引に引き剥がすと、ボッキリと折れた。
ストラがそのまま、今にもペートリューを踏みつぶそうとしているガドナンへ突進。背中から光子球を叩きつける。同時に、ペートリューを光子バリアで光子線を中和しつつ保護。
閃光が目映く輝き、片足を上げた姿勢から、ガドナンががっくりと膝を折って横倒しとなる。
すかさず、ストラはペートリューをプラズマ炎熱防御の電磁バリアへ切り換えて庇いつつ真正面のガドナンへ向けて高温プラズマ弾をお見舞いした。
甲殻に施されたの防御効果のお陰で爆発、蒸発こそしなかったものの、超絶的な電磁波と限定的重力制御によって一種の爆縮レンズを造り、胸部の極一点に熱と爆轟を集めたものだから、その一瞬だけ準戦闘モードに匹敵する貫通力が発生。ガドナンの胸に大穴が空いて、背後の地層深くまで威力が達した。
従って、そこを起点に、一気に地層が崩れた。
爆発するように地滑りが起き、ガドナンとストラを呑みこむ。
が、その現象を予測していたストラ、間一髪でペートリューを抱え、プランタンタン達のいる洞窟へ飛びこんだ。
「奥へ! 奥、奥!」
土砂が吹きこんできて、ストラの声も聴こえなくなる。
プランタンタンとフューヴァが、死に物狂いで走った。
その洞窟の入り口が完全に埋まり、まだ生きているガドナンやエルフ達の死体も膨大な土砂に埋まる。谷間や地底湖の半分以上、深さでは三分の一ほどが埋まり、さらには地鳴りの衝撃で天井の水晶や鍾乳石が再びガバガバと崩落した。
我々の世界で云うと世界自然遺産にも匹敵する明媚幻想の景勝を成していた壮大なカランドルの谷は、見る影もなくなったのだった。
5
「見事……723番に、入ったようだな」
四つの点だけが先に進む石床を見下ろして、最長老がつぶやいた。
「……」
返事が無かったのでふと顔を向けると、プラコーフィレスはもういなかった。
魔王の所に行ったのだ。
最長老が、皺だらけの口元を不敵にゆがめた。
ストラが再び照明球を出し、狭い洞窟内を照らしつけた。
フューヴァは、ショックと疲労で声も無かった。ストラの戦いを、こんな目の当たりで観た……というより、ストラの大規模戦闘に巻きこまれたのは、初めてだった。
(こんなの……命がいくつあっても足りねえぜ……)
つくづくそう思った。後の二人も当然そう思ってるだろうと思ったが、
「いやあ~~~ストラの旦那、さっすがでやんすう! ゲヒッ! この調子で、洞窟エルフどものお宝を、みーんないッただきでやんすううう~~~!! ゲェッ! ヒッヒヒッ、シッシッシッシシシシッシシ~~~~!!」
プランタンタンは、むしろ気分が昂揚している。確かに、死にかけたはずだったのだが……。
眼を覚ましたペートリューは、いつのまにやら背中の小樽から水筒に移したワインをグビグビに飲んで、
「……ストラさん、そろそろ外に出ないと……お酒がなくなっちゃますぅ……」
命より酒の心配をしている。
フー、とフューヴァは大きく息をついた。
(ダメだダメだ、こんな程度で弱気になったら……ストラさんについてくってのは、そういうことだぜ……! 御家再興! 御家再興! ストラさんを、王様にしてやるんだ!!)
パシッ、と両手で頬を叩いた。




