第5章「世の終わりのための四重奏」 4-10 時間を稼ぐ
プランタンタンやフューヴァ達が眼をつむり、顔を腕で覆った。光が消え、恐る恐る眼を開けると、空中に佇んでいるガドナンが、ガックリと脱力して地面へ落ちるところだった。
しかし、まだ完全には死んでいない。地面に落ちて倒れたままガグガグと痙攣して、立とうともがいている。
(やはり、あの魔力子パターン文様は光子線もある程度防ぐ……けど、戦闘は不可能と判断……この攻撃は非常に有効と認む……!)
ストラ、次の目標に向かう。
しかし、ガドナンどもはストラにかまわず、ほぼ三体同時に空中から岩影に回りこんでいたプランタンタン達へ襲いかかった。
「!!」
三人が、抱きあって竦みあがる。
ストラ、超近距離から超高速行動に突入。
そのまま一体に、ショルダーアタックぎみの体当たりを喰らわせる。
衝撃波が周囲を舐め、喰らった一体が大きな岩盤に当たってバウンドし、鍾乳石を砕きながらさらに吹き飛んで転がった。
だが、この攻撃でも甲殻は砕けておらず、生きている。衝撃で動きを止めているだけだ。
いまトドメは刺さずに、次へ向かった。
再び光子剣へ光子を集めるが、高熱プラズマや火炎、電撃と異なり、同等の攻撃力を有する大量の光子を自衛戦闘モードレベル1で集めるには、最低でも20秒はかかった。
(遅い……!!)
それまでは、どうしても物理攻撃で時間を稼がなくてはならない。
剣がエネルギーを光に変換している間、ストラは二体同時に踊りかかり、重力制御による空中殺法で蹴りを放ちながら二体を間を飛び回った。
だが、ガドナンも格闘では負けていない。ストラの高速運動に、天然の高速魔法とでも云うべきか……。とにかく高速で対応する。むしろ、トルネーグスより小型なぶん、動きが速い。空中でストラの蹴りを受けながら、背部の前羽が変化したブースターのような器官から噴出する生体ジェットを使い、瞬時に位置を入れ換えてタックルで反撃する。全身各所に刃物めいたトゲがあり、生身ならそれだけでズダズダに引き裂かれるだろう。
ストラ、自在に空中で座標を固定かつ移動できるので、ガドナンの攻撃をかわしながら間合いを図り、連続で蹴りをだした。二体のガドナンが何度もストラに体当たりをするが、ストラがひょいひょいと避けて蹴り返した。
と、一体のガドナンが、なんとその眼にも止まらぬ蹴りの足首を掴み、振り回して岩に叩きつけた!
岩石が砕けるほどの威力だったが、ストラは意にも介さない。叩きつけられた姿勢のまま、光子剣にチャージ完了した光子の塊をガドナンめがけてお見舞いする。
その右手首を、ガドナンが左手で掴んだ。
それが、とんでもない力だった。
さらに右手でストラの首を掴んで力比べとなり、ガドナンが生体ジェットをフルパワーにしてストラを岩に押しつけたため、たちまち岩石にヒビが入り、砕け、そのまま地面にストラを押しつけた。
(こい……つ……!!)
時間を稼がれていると感じたストラ、迫るガドナンの顔面めがけ、額の辺りよりプラズマ弾を発射。まともにヒットし、爆発して、ガドナンが仰け反る。
が、それでもストラの手を離さなかったので、ストラもひっぱられて起き上がり、逆に倒れたガドナンへ覆い被さった。
そのまま、右手の剣にある光子球をガドナンへ押しつける。ガドナンも全身の力をこめて、それを押さえた。光の塊が、ジリジリとガドナンの顔を焼く。
「723番を開けなよ」
腕組みで立ったまま、魔術師たちの後ろから光点を見つめながら、無表情でプラコーフィレスが指示。
すぐさま、岩と岩の隙間に、土壁が崩れて洞穴が現れる。
「あっ、あそこに、入れるところがあるでやんす!」
ストラの指示も無く、プランタンタンがもう岩の裂け目へ向かって走った。
「待てよ、おい!」
一瞬、躊躇してフューヴァが後を追う。ペートリューは動くことができずに固まっていたが、
「行って、私もすぐに追うから!」
倒れているガドナンへ今にも光子をぶちこもうとしているストラに云われ、弾けるようにしてダッシュ。ヨタヨタしながらも、魔物やエルフ達の死体を避けて、なんとか到達しようとしたその眼前に、空中からもう一体のガドナンが降り立った。
「……!!」
その無機質な、カマキリとスズメバチ、あと何かよくわからないがとにかく肉食の昆虫のカオを合わせたような凶悪なツラを前に恐怖に凍りつき、ペートリューが立ち止まった。




