第5章「世の終わりのための四重奏」 4-8 虐殺の饗宴
前衛が火炎放射の魔法を準備した途端に、衝撃波と共にストラがその光子剣を横一文字に振りかざした。
狙うのは、鎧の隙間、首だ。
フルアーマーだった黒騎士ゴハールと違い、フィーデンエルフ達は巨大ゲジに騎乗するためか、隙間の多い軽装甲を着装している。いかに魔術防御で光子振動効果を防ごうとも、隙間を狙われてはひとたまりもない。
手にオレンジの炎を吹き上げたままま、五人の首が綺麗に飛び、真っ白い顔と髪に真っ赤な鮮血が飛び散って映えた。
遅れて衝撃波が隊列を押し、突進していた陣形が崩れる。
右手に光子剣、左手に高温ガスプラズマ球を出したストラ、陣形が崩れて右往左往するエルフと巨大ゲジ達のただ中で構え、エルフ兵の剥き出しの顔面に向けてプラズマ球を叩きつける。
「ギャアア!!!!」
とんでもない断末魔をあげ、瞬時に顔面から脳まで炭化したエルフがひっくり返り、驚いたゲジが伸びあがって暴走した。二人、三人とガスプラズマ攻撃を繰り出し、さらに跳びかかって首を刎ねる。主を失った巨大ゲジは混乱して所かまわず毒液や炎を吐きつけ、エルフ達がそれを止めるために攻撃せざるを得なかった。
さらにストラ、高温ガスから切りかえ、ナパームめいた猛炎を食らわせる。炎に耐久のある楯や鎧があっても、その全身を包む高熱に生身がやられ、かつ窒息した。何人ものエルフが炎にまみれて転がり、絶叫を上げた。その周囲をパニックとなった巨ゲジが走り回った。
大混乱。大混乱だ。
そこへ、別動隊を殲滅せしめた円盤1が飛来する。
直系約1メートル、質量約80キロの擬似物体が時速100キロで高速回転しながら衝突するのだ。
対魔法防御の鎧がどうとかいうレベルではない。
枯れ木の束をへし折ったような音がして、血飛沫が舞い散る。手足が引きちぎれ、内蔵がぶちまかれた。卵をつぶすように頭蓋が砕け、脳髄が霧散した。
さらに、地上近くを飛行し、集団のど真ん中で周囲にプラズマ弾を発射した。
エルフたちが、面白いように倒れ臥す。
虐殺の饗宴が顕現していた。
「ぞっ、族長をお助けもうせ!!」
遠く作戦司令室で、磨かれた床に映る味方を示す光点が見る間に消えるのを感知し、最長老が叫んだ。
参謀格の魔術師四人が同時に呪文を唱え、魔力が動く。それを動力とし、フィーデン洞窟エルフ達が罠として洞窟内に仕掛けている魔術でも、かなり大がかりなものが発動する。
「ガドナンを出しなよ」
最長老が声の方を向いた。プラコーフィレスだ。腕を組み、普段とは想像もつかない厳しい表情をしている。
「ガドナンを……」
「早く!」
「し、しかし、ガドナンを出すには魔王様の……」
「このプラッキーが、とっくに許可を得ている!」
「あいわかった」
最長老自ら魔力を動かし、フィーデン洞窟エルフが飼っている中でも、最強にして最凶の魔物の檻が開けられる。
「四匹、全部出してよ!」
「もちろんだ」
最長老の眼が、魔力を映して赤く光った。
「グアッ…!!」
ヂャーギンリェルの肩にプラズマ弾が当たり、巨大ゲジ……アレケペンから落ちた。魔力によるバリアを展開し、なんとかストラの攻撃を防いでいた数少ない生き残りは、すかさずヂャーギンリェルを中心に陣を敷いた。
「族長、引きましょう!!」
「あやつ、バケモノです!」
「このままでは、皆殺しにされもうす!!」
しかし、この状況では引くのもままならない。
一方、ストラも、
(レベル2使用許可終了まで、あと40秒……! 残り、17人!)
150人のフィーデンエルフの精鋭軍団が、4分ちょっとで殲滅寸前である。
ストラが再度超高速行動へ突入し、一撃で決着をつけようとした。
その時……。
いきなり洞穴全体が、激しく揺れ始める。
「ま、また地震でやんす!!」
そもそもトラールの大樹海で地震に遭い、魔物に襲われてこの来たくもない洞窟に迷いこむ事となったのを思い出し、プランタンタンがフューヴァに抱きついた。




