第5章「世の終わりのための四重奏」 4-7 「円盤」使用可
「どうやって乗ってるんだ!?」
思わずフューヴァが叫ぶが、
「そんなこと、どうでもいいでやんす!!」
「三人とも、下がって、岩影に避難して」
そら来た、と、三人がつかず離れずで岩影に潜んだ。周囲に魔物がいないことを確認するのを忘れぬ。
(……右側に70、左側に80の魔力子依存生物騎乗兵……軽装鎧及び円楯表面に、魔力子一定パターン文様を確認……ある程度までの光子攻撃及びプラズマ攻撃を反射すると予想……)
しかも、今は三人を護らなくてはならないうえ、三次元探査の範囲が最大で40メートルと、異様に狭い。先程のような魔物が襲う可能性もあり、白兵戦を繰り広げるにもあまり離れるわけにはゆかないし、かといって近すぎても戦いにまきこむ。
かなり戦闘の難易度が高かった。
(上等……こんな見知らぬ原始社会で……ちょうどいいハンデ……!!)
珍しく、ストラが感情的になった。少し、前に出て、敵を視認する。
巨大ゲジゲジどもは、音もなく急斜面を駆け降り、かつ凄まじい速度だ。たちまちのうちに距離を詰めた。しかも、一部はさらに分かれ、背後に回るため地底湖に入り、なんと水面を走り出した。
(あのムカデ綱ゲジ目類似魔力子依存生物外皮殻に魔力子パターン文様無し……光子振動及びプラズマ攻撃が有効と判断)
展開するということは、その分部隊の数が減るということだ。
(待機潜伏行動中自衛戦闘モード……レベル1から2へ移行……限定的許可……許可時間……5分!)
待機潜伏行動中自衛戦闘モードが1から2に移行し、テトラパウケナティス構造体分離方式による「円盤」が使用可となる。
銀白色に輝きながら高速回転する直径1メートルほどの円盤が二体、出現。以後「円盤1」「円盤2」と呼称する。
すかさず銀色の軌跡を描いて洞窟内を高速飛行し、円盤1が高速回転しながら鏡のような湖面から上陸しようとしていた別動隊へ向かうや、数メートルの至近距離から対人プラズマ機銃弾を雨のように降らせた。
凄い連続音が洞窟内に響き、高く水飛沫が上がった。巨大ゲジは一撃で甲殻を貫かれつつ高温で体液が沸騰、破裂し、エルフたちが投げ出される。楯や鎧で弾丸を防いだエルフもいたが、着弾の衝撃で弾き飛ばされ、湖に落ちた。
そのエルフ達がいっせいに感電し、痺れて溺れたところを水底から現れた何匹もの眼の無い白い魔物に襲われて、次々に喰われたのはご愛敬だ。白大ナマズの魔物は、凶悪的な生体電気により敵や獲物を感電死させるのだ。
さらに円盤2は右手に広がる部隊めがけて飛び、同じく空中から容赦なく機銃掃射を喰わらせる。足止めの牽制攻撃に土埃が立って地面が抉られ、鍾乳石は砕け散り、巨大ゲジは吹き飛ばされる。
そして進行が止まったエルフめがけ、チェーガンめいて定間隔連続発射される一撃一撃が、確実にヒットした。
想定外の空対地攻撃に、エルフたちは防戦一方となった。中には、魔術防御の施された円楯でプラズマ弾を防いだはいいが、その衝撃で腕が折れた者までいる。戦闘モードレベル1の攻撃と、レベル2の攻撃ではそれほど差がある。レベル1が大口径対人ライフルとすると、レベル2には対戦車ライフルのようなものだ。威力が数十倍になる。生身で受けられる「重さ」ではない。プラズマを、弾けばいいというわけではないのだ。
「回れ、回れ!!」
その猛攻を抜けた何人かがストラの背後に周り挟撃しようとしたが、円盤の円周から全方向に容赦なくプラズマが発射されるので逃れられない。背中から撃たれ、のけ反って落馬……もとい落ゲジするか、ゲジを撃たれてバランスを崩し、振り落とされる。背中を撃たれた者は、酷い場合は脊椎や肋骨を骨折した。まだ動ける者はそれでも起き上がって突進するのだが、一発一発が三次元探査でサーチ&ロックオンされ、高磁場プラズマ制御で弾丸が確実にヒットするのだからどうにもならない。
「クソ!! なんだ、ありゃあ!!」
斜面から地面へ下りたヂャーギンリェルが、何事かと瞠目する。
「あの、浮かんでる銀色の皿はなんだ!?」
「わかりませぬ!!」
そこへ襲いかかったのが、ストラだ。
ヂャーギンリル自ら率いる本隊、80騎。
「族長ォ!」
走り寄るストラを発見して、騎兵が叫んだ。
同時に、距離20メートルでストラが超高速行動に突入する。




