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第5章「世の終わりのための四重奏」 4-5 プランタンタンは行方不明

 「…ホッ、エホ!! ゲホッ!! ゲホゲホ……!!」

 ストラの右脇に抱えられたフューヴァが咳きこむ。状況を確認し、

 「ストッ……ストラさん、プラ……プランタンタンは……!?」

 「プランタンタンは行方不明。流された」

 「え……ッ……!!」


 ストラの周囲を漂う照明球が水面も照らし、さらに流れに合わせてストラも下流へ進むが、とにかく流れが速い。プランタンタンは掴む間もなく、アッという間に狭域探査範囲外へ流れ去ってしまった。


 (……地底ダム湖を決壊させたのなら、水量に限界があるはず……水の勢いが収まるまで……無事を祈るしかない……)


 三次元探査範囲内では、生体情報及びゲノム情報を記録しているので、たとえ死体でも探査はできる。反応が無いということは、ずっと先に流れて行ってしまっているのだ。


 「おい、プランタンタン!! プランタンターーーン!!」


 ストラに抱えられながら、フューヴァが大声を張り上げた。洞窟内に声が響くが、水の流れる音の方が大きくて、とても聴こえていそうに無い。


 ストラは速度を上げて洞窟内を飛行し、流れにそって進む。時に天井が異様に低くなり、再び流れに潜る場面もあった。


 そこからまた天井が高くなって、やがて流れが緩やかになった大きな空間に出た。急いで水面全体を飛び回ってプランタンタンを探したが、どこにもいない。


 (……おかしい……ここにたどり着いていないはずが……)

 「プランタンタン! 返事をしやがれ!! プランタンタン!!」

 フューヴァは、叫び続けた。

 「あっ、あそこに……また流れが……!」

 いつのまにやら、ペートリューも眼を覚ましていた。


 照明球の範囲ギリギリの洞窟壁に、水が水面下でどこかに流れこんでいる渦が見えている。


 「地下に、流れがある」

 二人を抱えたまま浮遊し、ストラがつぶやいた。

 「どっかに、排水されてるんですか?」

 ペートリューがそう云って、濡れ髪をかき上げた。

 「天然の洞穴かも……二人とも、息を止めて」


 行くんだ……と二人が思った瞬間、ストラが高度を下げる。あわてて息を吸って止め、温い湯に飛びこんだ。


 水の流れに沿ってまっすぐ向かい、すぐに岩肌に到達。岩盤の隙間とかではなく、明らかに人為的に掘削された大きな四角い穴があって、水が吸いこまれている。


 (排水路の全長は約20メートル……出口は、谷底のような空間……)

 ストラは二人を抱えたまま、穴に突入した。


 穴は急角度で下方に向かい、水流はほんの数秒で滝となって噴出しており、三人も滝から飛び出た。


 滝の下も地底湖で、ストラが再び浮遊してゆっくりと水面を飛行する。


 再び幾つかの照明球が点灯したが、なんと、その地下空間はかなり広く、そして明るかった。


 「……!」


 フューヴァとペートリューは、ストラに抱えられながら周囲を見渡して声も無かった。幻想的かつ壮大な地下世界が、そこにあった。


 40メートルはある高い洞窟の天井にはびっしりと巨大な水晶の結晶が露出しており、しかもそれが地上にまで通じているのか、あるいは風穴でつながっているのか、ところどころ太陽光が差しこんで光っている。空間全体は巨大な地下渓谷になっていて、底に川と地底湖があった。川砂が海辺のように敷きつめられていて、流れはゆるやかであり、いまストラ達が出てきた滝の他にも、岩壁から何条かの滝が流れ出ている。岩盤が剥き出しになっている部分もあれば、鍾乳石が磨かれ、つるつるに光っている部分もある。幾つもの滝の音が重奏として響き、空間全体が鳴っているようだった。あのキノコ人間のような色をした巨大キノコが群生しており、いまにも動き出しそうで身震いする。ワシのような巨大コウモリも飛んでいるし、地底湖には大きな魚の影も見えた。その影が、飛行するストラ達を追って泳いでいる。


 カランドルの谷だ。

 速度を上げ、ストラは浅瀬に向かった。

 「あっ、ストラさん、あれを!!」


 目ざとくフューヴァが発見したのは、まさに地底湖の砂浜に打ち上げられて気絶しているプランタンタンであった。


 そのプランタンタンめがけて、陸地からは双頭の巨大なムカデ(のようなバケモノ)が、水中からは白巨大ナマズと思わしき影が、同時に迫っている。


 滅多に現れない、地上の獲物だ。魔物でなくとも、そのチャンスを逃すはずが無い。


 「ストラさ……!」


 フューヴァが声を発したときには、もう照明球がそれを操作する電磁波よりエネルギーを得て電圧を高め、一直線に向かった。

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