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第5章「世の終わりのための四重奏」 4-4 水攻め

 (あと8メートルで、下方に交差する洞窟へ移動できる……)

 ストラがペートリューを抱きかかえ、

 「あとちょっと、頑張って。下の洞窟に逃げるから」

 そう云って走り出す。

 プランタンタンとフューヴァが、死に物狂いで後に続いた。


 ストラの照明に、洞窟の奥から不気味な色彩の塊が浮かび上がった。魔族の肌のような見るからに毒々しい斑色をした、人間のような手足を持ったキノコだ。ヒタヒタと迫ってくる。


 「キッキ、キノコのバケモノでやんす!」

 プランタンタンが叫ぶも、フューヴァに答える余裕はない。

 接触寸前、ストラは牽制で前方のキノコに火球でも放とうと思ったが、


 (菌糸状体細胞及び胞子状物質に魔力子マギコリノ性複合猛毒成分……攻撃により、大気中に拡散の恐れあり……)


 ストラが、ペートリューを左で抱えたまま、片膝をついて地面へ右手を当てる。


 すかさず、超高周波振動がストラを中心にコンパスのように円を描いた。


 やや遅れ、厚さ3メートルほどの岩盤がきれいに切り抜かれ、ストラを乗せた円柱がそのままストンと真下に落ちる。


 「こっち!」

 プランタンタンが迷いなく、マンホールめいた穴に飛びこんだ。


 フューヴァが焦ってもたついたが、目の前にキノコ人間が迫ったので恐怖にかられ、眼をつむって穴に入った。


 最後に、照明球が穴に入り、キノコ人間どもの淡い発光器だけが闇に浮かび上がった。


 一体のキノコが穴に片足をつっこんで転倒し、そこへ何体もぶつかっり折り重なり、そのままジタバタした。



 交差し、3メートル下を通っていた洞窟は天井が高く、地面まで10メートルほどもあった。ストラは良いとして、プランタンタンもまともに落ちたら骨折は免れない高さだ。まして、フューヴァでは命にかかわる。


 そこは、再びストラが空中を浮遊し、落ちてくる二人を次々にキャッチして、ゆっくりと地面へ下ろした。


 先に落ちて折れた円柱の横で、プランタンタン、

 「ここはまた、ずいぶん広いでやんすね」


 真っ暗だが、ストラの照明球でも天井や岩壁が見えないのと、周囲の空気感で回廊のように大きな空間だと分かる。


 「まったく……なにが洞窟にはお宝がある、だよ。魔物だらけじゃねえか」


 精神的にも疲れ切って、フューヴァが肩を落とした。座ろうにも、鍾乳石だらけだ。


 「なんでこんな……地面から石のトゲが生えてやがるんだ?」

 忌々し気に、フューヴァがつぶやいた。

 「実はもう、地獄に来てるのかもしれやあせんぜ?」


 プランタンタンがそう云って、ゲッシッシッシ……と肩を揺らして乾いた笑いを出す。フューヴァは呆れると同時に、本当にそんな気がしてうすら寒くなった。ただでさえ、照明に照らされた鍾乳石の合間を見たことも無いくらい巨大なゲジゲジ、ムカデ、その他やたらと足の長い不気味なムシがゾワゾワとうごめいているし、闇の奥から音もなく飛来した大きなコウモリがその虫を捕らえてまた闇へ去って行った。


 「いまのは、魔物じゃない」


 ストラがボソリと云うが、どうでもよかった。とにかく、少し休みたい。フューヴァは、どうにかして座れそうなところを探した。


 しかし、フィーデンエルフたちは、休む間を与えなかった。

 「堰を切れ」


 ヂャーギンリェルが出陣し、作戦指令室を預かる最長老が、そう指示を出す。


 この巨大回廊につながるどこかで、膨大な地下水を溜めた地底湖の堰が破壊され、洪水が引き起こされた。


 ペートリューを抱いたままストラが歩き出し、プランタンタンも続いたので、フューヴァも仕方なく荷物を背負せおい直して歩き出したのだが……ストラが洞窟内大気及び地下を伝わる微細振動を狭域探査で感知すると同時に、


 「?」


 物音に敏感なプランタンタンが、微かな音と揺れに気づいて闇を振り返った。空気圧にも変化があり、耳を押さえる。


 「なん……」

 「警告。大量の地下水が迫ってきてい……」


 ストラの狭域探査は、今のところ最大で40メートル。時速100キロ近い鉄砲水が、約2秒で到達した。


 四人とも大量の水に飲まれ、流される。

 氷のように冷たい……かと思いきや、なんと暖かかった。温泉だ。

 (……成分は弱酸性湯……温度は38.2℃……)


 ストラが水中でも重力制御を行い、ペートリューを抱えたままフューヴァの手を取り、そのまま水の上に上がった。洞窟の半分ほどがたちまち川となって、轟々と流れている。

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