第5章「世の終わりのための四重奏」 3-5 余剰エネルギー回収効果場
火蜥蜴たち自身も灼熱であり、全身から立ち上る陽炎が凄まじい。溶岩流の上に浮いているようなかっこうだったが、それらがゆっくりと川岸へ近づき、やがて地面を踏みしめて上陸した。口から熱波の吐息を吐いて、その眼からも火が出ている。肩や、背中からも炎が列となってメラメラと吹き上がっていた。
「い……」
ペートリューが、熱さと緊張でカラカラになった喉の奥から、なんとか声を絞った。
「一体でも……操るのは相当の魔力を有した術者でないといけません……私なんか云うに及ばず……たぶん……ランゼ様でも、精霊召喚術は使えなかったはずです……それなのに……八体も……この洞窟全体が、ストラさんの探知をも妨害するほどの魔力結界になっているようですし……フィーデンエルフに、人間の想像を絶する魔術師がいるとしか……!!」
「……!!」
ペートリューが、まともなことを云っている!!
それだけで、プランタンタンとフューヴァは「ことの重大さ」を認識した。
「旦那ァ……負けないでおくんなせえ……どうか、ゲーデルの神様……!」
思わず、プランタンタンが手を合わせ、目をつむって祈りを捧げた。
だが、三人はストラの凄まじさを再認識することとなる。
ストラの神のような能力は、単に街一つを討ち滅ぼす戦闘力や魔力(と、彼女らは思っている)だけではない、ということを。
(溶岩流表面温度約摂氏1100℃……爬虫類系人類状エネルギー集合体の体表温度は約同560℃……未知法則により、魔力子が熱エネルギーを変換かつ爬虫類系人類状形象保持……余剰エネルギー回収効果場で回収……可能)
やおら、ストラも前に出る。八体もの灼熱の塊に向かって、歩きだした。
「!!」
フューヴァとペートリューが息をのんだ。
(これより、周辺余剰エネルギーとして魔力子及び熱エネルギーを回収する。効果場展開)
ギュムンデでエーンベルークンの濃いオレンジのシンバルベリルより強制的に魔力子をエネルギー源として回収し、ガニュメデでガルスタイの持っていた群青色に輝くシンバルベリルの魔力子も強制的に回収した、余剰エネルギー回収効果場がストラよりオーロラのようにして展開した。
ほぼ同時に、まるでバースデーケーキの蝋燭のように、効果場に飲まれた八体の火蜥蜴が一瞬にして吹き消された。
「え……」
ペートリュー、思わず眼をこすった。
信じられぬ。
「あ、あれ……火の怪物はどうした?」
フューヴァも、眼を瞬かせる。
それほど、一瞬だった。
そのまま、ストラはスタスタと歩き続け、どうしたのかと思いきや、ヒョイ、と溶岩の川に足元から飛びこんだ。
「!?」
三人があわてて前に出て、
「旦那……旦那ァアああ!?」
まさか自殺するようなタマでもないし、する必要もないし、ストラが溶岩に飛びこんだくらいで死ぬのか? という思いもあるが、とにかく仰天して駆けよった。
案の定、ストラは溶岩流の上に浮かび、エネルギー回収効果場をさらに展開するや、一気に灼熱の溶岩が真っ黒に冷え固まった。
「……!?」
三人はストラが何をやっているのか分からず、急停止して、あたふたと元の洞窟に戻った。
溶岩の流れは急激にストップして、下流はそのまま流れて行ってしまい、ぽっかりと川の跡と、再び地面の中へ向かって進んでいた洞窟だけが残った。上流はしかし、流れが遮断されたため、流れ来る溶岩が溢れて洪水みたいに地面を押し寄せる。が、それすらも効果場に接すると瞬時に熱エネルギーを奪われ、盛り上がったままの姿や、流れて波を打ったままの形で、即座に真っ黒な岩石となった。溶岩の光が消え去ったため、たちまち洞穴内が暗くなる。そのため、ストラの照明球の光が浮かび上がった。
「……!? !? …………!?」
それを見やり、三人が眉をひそめた。
(なっ、なんで、あんなグッツグツに煮えたったヨウガンが、アッちゅう間に岩になるんだ!?!?!?)
フューヴァは訳がわからなさ過ぎて、混乱した。魔法だとしても、どういった魔法なのか意味が分からず、どうしても横のペートリューを見てしまう。
が、ペートリューも同じ顔をしていたので、何も聴かずにまたストラを見た。




