第5章「世の終わりのための四重奏」 3-1 地底世界
「プラッキーのことをそう云ってくれるのは、オマエさんだけだよ!」
(プ……ラッ……キー……?)
エーンベルークン、それがプラコーフィレスの一人称だと気づくのに、しばらくかかった。
「さあて、と。これからじわじわ遊びながら、連中を魔王様のところまで誘導しなくっちゃ。なあ、エンベリー」
満面の笑みでそう云うプラコーフィレスを正面から見やって、
(エ……ンベ……?)
それが、自分につけられた愛称だと気づくのに、またしばらくかかった。
3
重力反発効果により、ストラは自在に「空を飛べる」のだが、ストラにしがみついているプランタンタンとフューヴァ、それに気絶したままストラに抱えられているペートリューは体力に限界がある。従って、何時間もそのままというわけにはゆかぬ。
轟轟と流れる地下水脈に崩落した岩石や土砂が音をたてて落ち、大穴から光の柱が地底まで突き立った。
「しっ、下は川でやんす!」
木にしがみつく猿のようにストラにしがみついているプランタンタンが、真下を覗いて震えあがった。
ストラはゆっくりと降下しながら、広域三次元探査を行った。だが、
(……洞穴全体を、強大な魔力子多重層が覆っている……空間歪曲効果が観測史上最大……探査不可能領域内に突入……狭域探査に変更……探査不可能領域内探査は半径40メートルが限界……)
濁流の上まで降下し、地面を探す。しかし、人が歩けそうな「川岸」は存在しなかった。完全にトンネル状になっている。
仕方なく、ストラは上流へ向かって飛びながら川を遡った。
ストラやプランタンタンは真っ暗闇でも関係ないが、フューヴァは全く光の届かない場所に入って恐慌しかける。
「スッ、ストラさん!! どど、どこに向かっているんですか!? ストラさんですよね!?」
まだ空中だが地面を求めて足をジタバタするので、ストラの腰にひっついているプランタンタンを蹴飛ばした。
「イタ、痛いでやんす、フューヴァさん……落ち着いて下せえ! ストラの旦那の、空飛ぶ魔法でやんすよ!」
「プランタンタンか!? どこにいるんだよ!?!?」
「だから……フューヴァさんがさっきから蹴って……蹴ってるんでやんすってば!!!!」
と、ストラがプラズマ照明球を三つ、浮遊させた。周囲が一気に明るくなり、高い洞穴の天井や、狭い壁が照らし出された。
フューヴァがまぶしさに目を細めつつも、自分を抱きかかえるストラを確認して、やっと安心する。
「す……すみません、ここは一体……!? さっきは、何が……!?」
「いま、下りられるところを探すから」
云いつつ、一時間ほど遡ったが、地面は現れなかった。もちろん高速で進んでいるわけではないが、時速にすると30kmほどなので、馬が小走りしているほどのスピードは出ている。つまり、距離にしても30キロは遡った。ただ、地下水洞はかなりクネクネと入り組んでおり、直線距離ではおそらく10キロも進んでいない。
(地上であれば、直線距離で森を抜けられたかも……最初からこうすればよかったか……)
ストラがそう思ったころ、探査波に感があった。
「下りられそうだよ」
フューヴァとプランタンタンが、ホッと息をついた。
そのまま高度を落とし、川岸へ向かう。トンネルから、大きな洞穴へ到達していた。ストラの照明球でも、天井が見えない。川幅も急に広くなり、30メートルはあるだろう。川岸はしばらく通路のようになって、奥へ続いているように見えた。
そして、もう川岸に到達するという時、突如として急流の波間より巨大な生物が大口を開けてストラに襲いかかった。巨大なナマズか、オオサンショウウオにも思える姿をしており、洞窟生物らしく、真っ白で眼が無かった。口の幅が4~5メートルはあるバケモノで、何重にも鍾乳石めいた歯がびっしりと並んでいた。手があるようにも、無いようにも見えた。
「!?」
下を見ていたプランタンタンが気絶せんばかりに驚いた瞬間、ストラの放っていた三つの照明球の一つがそのまま球電としてバケモノの口の中に吸いこまれ、数千ボルトの電流が弾けた。
また、三次元探査で襲撃を感知していたストラも、スゥッと高度を上げて避けている。
感電したバケモノがひっくり返って水飛沫を上げながら急流に消え、ストラは静かに川岸へ着地した。
「……っくりしたでやんすううう~~~……!!」




