第5章「世の終わりのための四重奏」 2-8 罠の発動
そして真下の泉で水を汲み、細紐でロープの先に結ぶと、
「ひっぱってくだせえ!」
「ほいきた!」
フューヴァがロープをひっぱって、無事に水をゲットした。
それを何度か繰り返し、水筒にたっぷりと水を補充する。またも余裕でプランタンタンがロープを上がってきて、
「ペートリューさんも、いちおう、ほれ、水を入れといた方がいいでやんすよ! 酒ばっかりじゃ、干上がっちまいまさあ」
云われても、ペートリューは地面に横になったまま、死んだように動かなかった。疲れ果てて、気絶していた。
「やれやれ……」
フューヴァはペートリューの荷物を漁り、リュックの外側に結びつけている五本もの水筒を確認する。なんと、その全てに酒が入っていた。小樽から蒸留酒を移しかえ、旅の間じゅう、少しずつ飲んでいたのだ。
しょうがないので、ほとんど飲み干している三本に水を詰めてやった。
(きっとペートリューさんはアレを飲んで、酒じゃねえもんで吹き出すでやんす……)
プランタンタは、フューヴァのその作業を見つめながら、そんなことを考えた。
その時だった。
「みんな、集まって!!」
ストラが珍しく緊迫した声を発したので、反射的にプランタンタンがストラの近くに駆けよった。フューヴァがあわてて気絶するペートリューに掴みかかり、遮二無二引きずってストラに近づく。が、その重さにたじろいだ。ペートリューが重いだけでなく、背負っている酒樽がまた重い!
「クソ……」
落ち葉に滑って、倒れ臥す。
「……!」
ストラが二人を助けようと一足跳びに向かったので、取り残されたプランタンタンが悲鳴のような甲高い声を発した。
同時に、地面が揺れる。地震だが、ユサユサと広範囲に揺れるのではなく、下から突き上げるように振動が来て、忽ち地面に亀裂が入って、溶岩台地が崩れだす。
さらに、地下から木の根のような硬質さと頭足類の触腕のような軟体さを兼ねそろえた触手と、節と外殻をもった節足生物の長い腕とか同時に幾本も出現し、四人を取り囲んで籠の様なものを形成した。
瞬間、ガッパリと地面が広範囲に陥没し、一気に落ちる。生身を抱えて、超高速行動はおろか、準超高速行動も無理だ。重力制御で落下をコントロールしながらフューヴァとペートリューを抱え、落下する土砂や岩石を避けながらプランタンタンに向かう。手を伸ばし、なんとかプランタンタンがストラの足にしがみついた。
そのまま上昇しようとしたが、
(……魔力の壁……展開が速い……! 空間が歪んでいる……三人は物理的突破不可……位相空間中和プログラム起動……不許可……! このまま降下します……!)
三人を抱えたストラは、地の底に向かって静かに降りた。
「かかった!!」
洞窟内に掘られた作戦室がわりの狭い部屋で、プラコーフィレスがそう叫んで手を打った。ピカピカに磨かれた石床には、魔力の光で洞穴の地図と、四つの小さな丸印、それへつながる線、さらにはフィーデンエルフの言葉で何やら書かれている。
プラコーフィレスとエーンベルークンは、その光の線の地図を挟んで、向かい合って床に座っていた。
「何番だ……?」
エーンベルークンが、銀灰色の眼を細めて云う。街道筋に複数しかけたトラップの番号のことだ。言葉は話せるが、複雑なフィーデンエルフの文字はよく分からない。
「これは……六番だね」
「六番か……存外……早かったな。それに……森を通るとは……」
「あの大酒のみのクズ魔術師にデルエル峠は越えられないと踏んだのが、大正解さ。それに森を通るなら、ここいら辺で水を補給すると読んだんだ」
「フフ……」
思わずエーンベルークンが笑ったので、
「おっ……なんだなんだ、オマエさんの笑顔なんてものが見られるなんて、幸先いいな?」
「バカな……」
エーンベルークンはすぐに微笑みを消し去り、
「だが……大した策士だと思って……な……」
「アッハハァ!」
プラコーフィレスも、楽しげに顔を綻ばせる。




