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第5章「世の終わりのための四重奏」 2-6 道標を右に

 (いっそ……衛星軌道上で太陽風を集めようかな……)


 それなら、重力レンズそのものを何万倍にもできるし、太陽風の規模によっては数日で少なくとも宇宙線回収方式の数万倍から数百万倍のエネルギーを補充できるだろう。またその程度でも、この世界程度の敵対(生物)兵器ならば、なんとか短時間限定で準戦闘セミバトルモードに移行できるだろう。


 ただし、衛星軌道上でそれほどの重力レンズを展開するとなると、その余波で地上が焼き払われる可能性がある。少なくとも、真下の地表温度は推定摂氏70℃ほどになる。ストラといえども、効率100%のエネルギー吸収は不可能だからだ。必ず余剰エネルギーが振りまかれる。


 影響はデカイ。

 (……ま……そのうち……どこかでやろう……)

 その夜も、ストラは朝まで天の目玉による宇宙線回収を行った。


 そんな星空を歪める巨大な一つ目玉を、フューヴァは不思議と美しいと思った。


 「神の眼」とすら思った。

 (ストラさんを……一国の王にできますように……)

 気がつけば、フューヴァはその目玉模様に祈りを捧げていた。



 翌日早朝、珍しくペートリューもしっかり起きてストラと共に宿の玄関前に現れたので、プランタンタンとフューヴァも驚くと同時に頼もしく思った。


 「やっとオマエもやる気になった……はずはねえと思うけどよ、よく起きれたな」


 「まあ、ストラの旦那といっしょでやんしたから」

 「確かにな……」


 そういうペートリューは、ストラがナノマシンと催眠誘導波、そして多少のエタノール強制投入で脳神経系を調整済なのだった。


 「えへへ……どういうわけか、調子いいんですよ~」

 ペートリューが、ボサボサの赤茶色の髪を手でくようにして搔いて笑う。


 じゃあ常にそうしろ、という話だったが、やりすぎると、今度はストラの調整に依存してしまうので、これがなかなか難しい……。


 四人は勇んで宿を出発し、スルヴェン市を出て、北へ向かうヴィヒヴァルン街道へ入った。


 街道はよく整備されており、歩きやすかった。

 シュベール家で整備していたからだ。

 余計な石や、木の枝ひとつ落ちていない。


 途中、同じくヴィヒヴァルンへ向かう隊商や旅人が何人も歩いていたし、逆にヴィヒヴァルンからもとってスルヴェンへ向かう人々ともよくすれ違った。


 だがそれも、午後になってフィーデ山の麓まで来て、変わった。


 太い主要街道がフィーデ山を仰ぎ見つつまっすぐ西側へ抜け、デルエル峠を目指して続いている。街道を往き来する全員がデルエル峠へ向かい、デルエル峠から向かってくる。


 四人は、三方向に道の別れる交差点で立ちすくんだ。


 山へ向かって登山道のように向かっているのは、ニムルスの洞窟へ行くのだろう。しかし、岩だらけでほとんど道というものではない。事実、誰も山を登らない。ただ、朽ちかけた道標みちしるべだけが、げた文字で「ニムルスの洞窟」と書いてある。


 そして反対方向へ向かっている荒れ果てた獣道みたいな道にある傾いた道標みちしるべには、「トラール」とだけげかけて書いてあった。


 「こっちでやんす」


 プランタンタンが、ひょいひょい・・・・・・と石だらけの道とも云えぬ道を進む。その後ろを、


 「こりゃ、すっげえな……」


 杖を使いながら、フューヴァが続いた。その後ろに必死の形相で酒小樽を背負しょったペートリューが続いて、最後にストラが歩いた。


 それを見ていた旅人の一人が驚いて、

 「おっ……おおい! あんたたち、道を間違えてるぞーッ!」

 四人が止まらなかったので、

 「おおい! おい!! おーい、待て! こっちだ!! デルエル峠はこっちだぞ!!」

 やっと、四人が振り向いた。


 「あっしらは、森を抜けるんでやんすよ!!」

 先頭からプランタンタンが大声で返した。

 「……な……なんだってええーーーッッ!!」


 その場にいた街道の全員が、思わずそう叫んだ。

 そりゃそうだ。彼らにしてみれば、完全に自殺行為なのだから。

 唖然とする人々の視線を背中に、四人は荒野に向かって進んで行った。



 地表近くでマグマが冷えて固まった大小無数の玄武岩がゴロゴロしている山麓を、足を痛めぬよう、ゆっくりと進み、岩場で野営をして二日も進むと、岩だらけながらボウボウと草木が生い茂ってきて、やがて忽然と緑の塊が眼前に広がった。


 トラール大森林。我々の感覚で云うと、トラール大樹海のほうがイメージしやすいだろうか。

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