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第5章「世の終わりのための四重奏」 2-4 森を進む装備

 「魔物でやんすか……」

 プランタンタンも、眉をひそめた。

 「そ、そんなに、ウヨウヨと出るのか?」


 「い、いいえ、ウヨウヨというほどは……ただ、こちらも、もう何十年も滅多に人が通らないので、よく分からないんですよ」


 「なるほどな……」

 フューヴァが腕を組んで、考えこみだした。

 プランタンタンは、フューヴァが何を考えているのか分かった。


 (どんな魔物かは知らねえでやんすが、一匹やそこら、どうせストラの旦那の敵じゃあねえでやんす。その、けっこう険しいっちゅうナントカ峠を、酒樽を背負しょったペートリューさんが越えられるかどうかでやんす。峠のてっぺんで、息が切れて死なれても面倒……)


 あの、スラブライエンとマンシューアル国境の低い山ですら死にそうになっていたのを思い出す。以前、もっと標高の高いダンテナやタッソまで来ていたのを見ると大丈夫なようにも思えるが、あの時は時間をかけて身体を慣らしながら昇り降りし、また街まで来てしまえば休息もできた。酒樽を背負しょっての峠越えとは、必然、状況が異なる。


 (そうなると、ゆっくりと森の中を通ったほうが、結果として楽チンなんじゃあねえかと)


 そう考え、プランタンタン、宿の主人に、

 「試しにこっちがわの森を通った場合、その、テレ……」

 「テレンゼ」

 「そこまで、何日くれえかかるんでやんすか?」


 「ぐるっと回るんで、遠いですよ。記録によると、一月以上……場合によっては二か月近くもかかるとか」


 「そらまた、随分とかかりやんすねえ」

 「まあ、日数的には……」


 時間もかかって、魔物も危険というわけだ。好きこのんで通る者がいるはずもないのが道理だった。


 「どうしやす? 旦那」

 プランタンタンが、ストラに判断を仰いだ。

 「うん」

 ストラは、別にどこでもよかった。当たり前だが。

 と……。

 「あ、あの~……」

 珍しく、ペートリューが声を上げる。

 プランタンタンとフューヴァは、ペートリューが話を聞いていたことに驚いた。


 「デ、デルエル峠って……前、タッソに居たころ、仕事でランゼ様を見送ったことがあるんですよね……ランゼ様が、ヴィヒヴァルンへ出張した際に……途中まで登るのも、死にそうだったんですよ……それで……」


 「ハイ、決まりでやんす。その、ナントヤラっちゅう森を進むでやんす」


 主人は驚いたが、確かに、デルエルの峠は峠越えとは名ばかりで、事実上は2000メートル級の登山である。体力的に難しい者がいるのも、事実だ。そういう者は、さりとて森や洞窟を通りたくもないので、ヴィヒヴァルンへは「行くことができない」のが現実だった。


 「そうですか……もし無事にトラール大森林を通り抜けられたら、是非テレンゼで記録を残すことをお勧めします。後世の人たちのためにもね」


 「考えとくぜ」

 フィーヴァが、そう云って地図を返した。



 それから四人はスルヴェンの街に出て、森を進む装備を買いこんだ。


 「これからの季節、森はムシだらけに草だらけでやんす。あっしらエルフは平気でやんすが、御三方……いや、ストラの旦那もたぶん平気でやんしょうから……フューヴァさんとペートリューさんは、しっかり装備を整えねえと、毒虫やら毒草やらヒルやらヘビやらにやられて、旅どころじゃなくなるでやんしょう」


 「脅かすなよ」


 この旅までギュムンデから出たことがなかったフューヴァ、眉をひそませる。思えば、マンシューアルへ向かう低い山の中でも、歩くのに苦労した。


 が、衣服屋へ向かうと、流石に様々な山岳、森林踏破装備がそろっている。一行はそこで新しい頑丈な靴やゲートルのような脚絆きゃはん、分厚いケープ、その他首などに巻くタオル、そして革の手袋、登山用の杖、傷薬や毒消し軟膏などの医療品、今使っているものより大きく頑丈な万能ナイフ、頭を護る帽子などを購入した。


 ストラも(そんな装備はまったく必要無いのだが)一式を買い揃え、今まで三人が見たこともないような姿となった。


 さらに、一か月分もの携帯食料や水などを買いこみ、巨大なリュックに背負って、まさに探検隊のような姿となる。


 もちろん、ペートリューのリュックの中身は小樽が二つだ。しかも、両方ともワインではなくワインの搾りカスから作る蒸留酒のカルバドスだった。度数的に少しでも飲む量を減らせるのと、いざという時に消毒に使えるからである。

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