第4章「ほろび」 4-1 まるで、戦国時代
そのため、城の構造をよく知る情報将校のシュベールの指図で虎の子の爆薬を仕掛け、正門を破ったのだった。
兵士が雪崩れこみ、瓦礫の山に戸惑いつつも城へ突入。徹底抗戦を試みる一部の城兵と、城内で激しい白兵戦となった。
「ラグンメータ様、火をかけますか」
ラグンメータがピアーダやシュベールをチラと見て、二人とも小さく首を横に振ったので、
「火攻めは厳禁とする」
「ハハッ!」
兵士が下がった。
「なにせ、フランベルツ城が焼け落ちては、今後の統治が……」
ピアーダの言葉にシュベールも、
「あの規模の城を再建するカネを工面するのは、なかなか骨が折れる事かと存じます。あとは、ストラにこれ以上の戦闘をさせなければ……」
「ストラか……」
結局、50体ものゴーレムを苦も無く破壊し、ラグンメータ達が相手をするはずだった「フランベルツの魔王」をも始末してしまった。「ナントカベリル」も、砕かれた破片を見せられたが、ストラが無力化した。(らしい)
(ヤツと出会えたのは、まさにグールラの神々の御導き……! しかし、もしヤツが敵だったら……!!)
背筋が冷たくなる。この「仕事」が終わったら、この地を去るというのが救いだ。
(どこに行くのかは知らんが……ヤツと関わり合いになる者には、同情しかない。敵だろうと、味方だろうと……運命を狂わせる)
そもそも、ストラは「何者」なのだろうか。あの能力は、とても人間とは思えない。かといって、魔族でもなさそうだ。では、一体なんなのか?
(まさか……本当に神だとでも……?)
魔族は現実として存在するが、神々や神々と戦ったという神話に登場する大魔族……魔神ともいう……は、実在が証明されていない。
(ワケが分からんが……とにかく、ストラは存在する。それだけは、間違いない。現実だ)
この戦いさえ終われば、二度と関わり合いになることはないだろう。
「……く殿、総督殿」
ラグンメータは、誰のことかわからず、ぼんやりしていた。
「総督殿!」
ピアーダのほうを向き、
「あ……ああ、オレか」
「お疲れですか、あとしばらくの辛抱です。必ず、勝ちましょう」
「そうだな。それに、総督はまだ早いよ……」
「なに……あとは、グレイトルのみにて」
「グレイトル将軍か……。地方伯は、どうする?」
「地方伯?」
ピアーダが小鼻で笑い、口元を歪めた。同じくせせら笑うシュベールと眼を合わせ、
「おそらく、とっくに逃げ出しているかと」
グレイトルがそのことを知ったのは、夜明けの少し前のことだった。
もはや正門が限界だということで、城兵に対し各所で徹底抗戦を指示した。兵たちは高級な家具を惜しげもなく通路に積み上げてバリケードにしつつ、室内戦闘用の小剣や手斧に持ちかえた。
「閣下、閣下! お逃げを! 閣下! か……」
地方伯の部屋へ行くと、蛻の殻だった。
半ば予想していたが、既に脱出していたのだ。
「いつ、お逃げになったのだ」
地方伯を警護する近習兵は共に脱出したが、部屋を守る兵士が残っていたので、声をかけた。
「ハ! 先ほど将軍がここを訪れて、すぐに!」
ストラがゴーレムを次々に破壊し、その戦いの音に恐怖した地方伯に再び呼ばれたその後だ。ほんの数時間前だが、その時には、もう脱出していた。
(と、いうことは、今頃は既に帝都へ向かっているだろう……)
グレイトルは、大きく息をついた。
(250年もこの地を治めていたフランベルツ家が、こんな形で終わろうとは……まるで、戦国時代だな)
そこで、鎧を脱ぎ始めた。意味を悟った兵士が、慌ててそれを手伝う。
(いや……神聖帝国そのものが、もう限界なのだ。次なる戦乱の世が、始まるのだろう。それも……あの、ストラとかいう悪魔が……大魔王が引き起こす、大災厄の大戦乱が……!!)
虎の子のゴーレム軍団は殲滅、ガルスタイもやられた。それが、たった一人の魔法戦士の仕業である。
(しかも、夜半から夜明けにかけて……たった数刻で……)
もう、笑うしかない。




