第4章「ほろび」 3-11 どこの魔王
だが、ゴーレムを全て失ったガルスタイが直接シンバルベリルを使用しようとした場合、どうすべきか。
その時は、ストラが対応するしかない。
(それも、最大限の速度で……自爆の可能性もある……)
小ゴーレムがストラへ接近し、さらに、大ゴーレムが城の一部を破壊しながら前に出て、ストラを蹴りつける。
だが、遅い……。
あまりにも遅い。
例えばその巨体で超音速行動ができるのであれば、衝撃波を伴う質量攻撃だけでも絶大だ。
それが、この遅さでは、どうしようもない。
ストラのような敵との遭遇をいっさい想定していないのだから、仕方がないのだが……。
ストラ、先ほどは未避難の周辺住民への被害を鑑み、通常行動で戦ったが、ここはもういい。
瞬時に超高速行動へ移行するや、光子剣が光り輝く。
それはもはや、稲妻だ。ストラを蹴り付けようとした大ゴーレムの右足がつま先から砕かれ、細切れとなり、破壊が腰から胴体へ向かう。衝撃波が周囲を破壊して、大音響が夜の闇に響き渡った。そのままゴーレムの胴体を砕きつつ、大きさ的に延髄の下のあたりに設置された魔力子受容体も胸部を貫いて内側からそのまま砕いた。
魔力供給を断たれたうえに躯体も破壊され、城が崩れたようになって、大量の瓦礫が正門前広場に積みあがった。
さらにストラは、そのまま他のゴーレムへも超高速行動のまま次々にぶち当たる。その衝撃は、ゴーレムの胴体や上半身を一撃で木端微塵にした。もはや、受容体がどうというレベルではなかった。
見る間に、ゴーレムの数が減ってゆく。
「クソッ!! 悪魔か!! 魔族なのか!? あやつ!! ピアーダめ、マンシューアルめ!! 魔族と契約でもしたのか!?」
それにしても、ただの魔族ではない。こんなものはもはや、本当の魔王クラスではないか。
ガルスタイ、塔の上でワナワナと震えた。
(真の魔王が……来たのか……!? いったい、どこの魔王なのだ……!?)
こうなれば市民の犠牲も厭わず、シンバルベリルを直接攻撃に使い、反乱・侵攻軍へ大火力をお見舞いするしかない。不得意な攻撃魔法だが、シンバルベリルの力を借りれば可能だ。
その思考に反応し、シンバルベリルが残った魔力を集中し始める。
だが……。
吹きさらしの塔の最上階に、ストラが現れた。
「う…………!!」
光子剣の光だけではない。全身から光子が噴き出て、まるで神の後光か魔王の瘴気だった。その半眼は鋭く吊り上がって光り、ガルスタイを射抜いた。
(お……女……? 魔女……魔女だったのか……!?)
金縛りにあったように、ガルスタイが硬直する。
ストラは空中浮遊のままゆっくりと吹きさらしの最上階に侵入し、ガルスタイに近づいた。そして、藍や群青、海色に輝く杖先のシンバルベリルに左手を伸ばした。
(な、何を……!!)
ガルスタイは、全く動けなかった。
ストラは、がっしりとシンバルベリルを左手で掴んだ。同時に、通常は宇宙線や太陽光線等を吸収するエネルギー吸収フィールドを展開。魔力子及び魔力子展開エネルギーを、一気に吸収した。
「……!!」
そのフィールドに巻きこまれたガルスタイは、0.05秒で全身が粉微塵になって消し飛んだ。いや、もはや原子分解のレベルで消滅した。
1.5秒で、ストラはシンバルベリルのエネルギーを全吸収した。
残ったのは、ガラス球のように透明になった、カラのシンバルベリルだけだった。
光が消え、浮遊していたストラはストン、と最上階に立った。
そのまま、球体を握りつぶした。
4
夜が明けてきた。
一部残った兵士、あるいは逃げ損ねた兵士が立て籠るフランベルツ城を、ラグンメータ・ピアーダ軍が夜通し攻めていたが、夜明けと同時に、ついに攻め手が正門を突破した。内戦を繰り広げていた裏門は、おおかたの兵が逃げ去ってから堅く閉ざされていた。構造上、正門のほうが頑丈なのだが、何せ正門前広場にストラの倒したゴーレムの残骸がうず高く積みあがっており、防御陣地が築けず、また兵士も近づけなかったので正門は閂だけで放置されていた。




