第4章「ほろび」 3-7 対ゴーレム戦
光子剣の物質破断力はゴーレムどもの手足を余裕で切断し、体勢が崩れたところを背中に回って凄まじい力でパンチや蹴りをお見舞いした。
そのたびに、ガゴォ!! ガゴォオン……!! と、採石場で岩石を砕くような凄まじい音が深夜のガニュメデに轟いた。
「……何事だ!!」
休んでいたグレイトルも、急いで軍議室に現れた。既にガルスタイがいた。
ガルスタイが説明しようとした矢先、
「グレイトル様、閣下がお呼びです!!」
グレイトルは顔をしかめながらも、地方伯の寝室に向かって走った。
ガルスタイ、大きく息をついた。
(ゴーレムの弱点を知り、しかも一撃で破壊できる方法を実行できる者が、敵方にいるとは……!? いったい……何者……!?)
ストラはまさに闇の中を蝙蝠のように舞い、梟のように音も無く突き刺さるとゴーレム達の背部魔力子受容体を一撃で破壊した。
四体のゴーレムは、アッという間に彫像へ戻り、また、道路に倒れ伏して崩れ、瓦礫の山と化した。
(……!!)
驚いたのはガルスタイだ。一体、二体ならまだしも、瞬く間に、
(四体ほぼ同時……だと……!! な、なにが……!?)
動揺しつつ、城内直掩を除く市街配置の全ゴーレムを起動。ストラへ向かわせる。
36体もの軍団が、ドシドシと足音をたてて集結を始めた。
「……よし、動き出したぞ」
ストラの任務は、ただゴーレムを倒すだけではない。引き付けるのも重要な仕事だ。それが、うまくいっている。
闇夜に紛れて接近していたラグンメータ・ピアーダ両軍が、ゴーレムのいなくなった城壁要塞の隙間に集結を始める。三軍に分かれ、三か所から突入する。
「突入は、いつですか?」
ピアーダが、総司令官のラグンメータに問う。
「もう少し待て、ストラが石巨人を完全に倒してからだ」
すなわち、一体でもラグンメータ達を襲ったら、大被害なのだ。
「了解しました」
ピアーダが、マンシューアルも含めた各部隊長に厳命した。
「兵士達に、先走った抜け駆けは死罪に処すと伝えよ!!」
満足そうにうなずき、ラグンメータがサンタールと眼を合わせた。マンシューアル・フランベルツの恩讐をいかに超えて協力し合えるかが、この戦いの勝利と、勝利の後の統治に関わってくる。
そして城からの魔力の流れを感知したストラ、迎撃態勢に入る。
(……ここであの数と戦ったら、未避難の非戦闘員を巻きこむと判断。終結前に、確固撃破開始)
光子剣の輝きが増し、音のない稲妻のようになって縦横無尽にガニュメデを走った。
倒し方も、戦闘の最中に定型ができた。
まず足を狙う。人型なのが裏目に出た。もっとも、この世界の常識では、よほどの攻撃魔法か特殊な攻城兵器を応用しない限りゴーレムの足を破壊できる方法は存在しないので、人型なのは威嚇効果も高くまた歩兵等を文字通り「蹴散らす」のに非常に有効なのだが、その足を破壊できる敵が現れたならば、たちまち弱点になる。
高速で、燕が急降下するようにストラが接近。光線が残像を残して闇に光り、ゴーレムの両足、もしくは片足を草でも刈っているかのごとく易々と切断するや、ゴーレムは、ガックリとバランスを崩して倒れる。その自重を含めた衝撃で、手が破壊される場合もあった。
倒れた後、なんとかゴーレムは起き上がろうと身体を起こす。
なんにせよ、動きが鈍るうえ、背中の弱点が丸見えとなった。
しかも、ゴーレム達は背中が弱点だと認識していない。
認識しているのは、あくまでガルスタイだ。
そんな状態なので、自動行動では背中を護ろうともしない。
しかもガルスタイの術は、ゴーレムの一体一体をアバターのように詳細に「操作」するものではなく、魔力で「動力」と「攻撃命令」を出すだけだ。後はゴーレムがオートで動く。
ストラは真上から膝落とし、直線蹴り、あるいはハンマーパンチでランドセル状の魔力子受容体を易々と破壊する。
たちまち動力源だけではなく、躯体を構成する魔力まで断ち切られ、ゴーレムは動くどころか身体を保てなくなり、バラバラと崩れて構成素材である石材、土材、セメント、木組み、レンガなどの塊となった。




