第4章「ほろび」 3-5 避難
よく分からないが、ストラがそうしろというのだ、すぐさまそうする。
手早く荷物をまとめ、もう18万トンプほどになっている金貨や宝石を手分けして隠し持ち、テントの近くに停めてある荷馬を引っ張ってくる。
「し……しかし、流石にこれだけの御金様や御宝様を持って、あっしらだけで街道を進むのは……」
テントの前で、プランタンタンが消え入りそうな声で囁いた。
とたん、またビヴュウウウ……ん、と振動音がし、ストラの頭上に1メートルほどの銀灰色の皿が出現。アッ、とプランタンタンとフューヴァが思ったときには、もう光学迷彩で見えなくなった。
「円盤」だ。
テトラパウケナティス構造体分離方式により、この自律式の警戒・攻撃ドローンが自動行動で三人を護る。
「い、いまのは……!」
「常に、三人を警戒・索敵、敵が現れたら攻撃するから」
またもよく分からないが、ストラがそう云うのなら、そうなのだろう。ホッとして、フューヴァとプランタンタンが眼を合わせ、急いで馬に乗った。ペートリューは元から円盤を知らないし、襲われるのではという心配すらしていないので、酒だけを厳重にチェックしていた。
(もうひと樽……どうにかして括りつけられないかな……)
そう考えたが、無理だ。
「おい、ペートリュー!」
フューヴァが馬を出す。
「あ、ま、待って……!」
挨拶もそこそこに、三人が出発した。兵士たちの合間を縫って、陣を抜ける。
そこへ、先程の兵士が伝令としてやってきた。
「あっ……御三方を、逃がしたんですか?」
「はい」
「……良い判断です。戦いが長引くにしても、短期決戦になるにしても、非戦闘員がいつまでもいては……」
「はい」
ストラが半眼の無表情で、兵士を見つめた。
「……あ、は、はい! ストラ殿、夜襲を敢行願います! そして、それに乗じて、われわれも夜襲を! ストラ殿には、あの石巨人どもを引きつけていただき、全て破壊を!」
「分かりました。出撃の時間は、ラグンメータ卿の命に従います」
「了解しました!」
また、兵士が戻ってゆく。
それからストラは本陣へ呼ばれ、ラグンメータ達と過ごした。
そして、いま分かっている限りのゴーレムの場所を教えられる。
もちろんそれらは広域三次元探査により、彼らが把握していない分のゴーレムも含めてとっくに分かっていたが、ストラは黙って聴いていた。
肝心なのは、その次だ。
すなわち、ストラがどのようにゴーレム軍団を破壊し、その後、どのようにラグンメータやピアーダがガニュメデを攻撃するかを入念に打ち合わせた。
背後に味方の軍団があり、戦場となる市街地ではガニュメデの市民がまだ多く残っている状態で、ストラが全力戦闘などできるはずもない。
「……頼んだぞ、ストラ」
「はい」
ラグンメータの声に、無機質に答える。
「では、ストラの攻撃開始を、深夜一の刻きっかりとする」
この惑星の自転時間は地球と異なるので一概には比較できないが、地球時間で云うところの、0時ちょうどに相当する。
だいたい、現在時刻より四半日後だ。
兵士たちはあわてて食事を取り、仮眠をして、夜襲にそなえた。
「ストラも、休んでおけ」
「はい」
休む必要など無いが、そこは人間偽装行動でテントでジッとしていた。
(……攻撃の余波を鑑み、潜伏行動中攻撃モードレベル1以上は無理と判断……。また、魔力子駆動式自動汎用人型兵器……補給部隊を攻撃した、同じく魔力子駆動式自動攻撃機及び戦車と比較し、内在魔力子量が非常に少ない……。魔力子自己補充機能があるのか……それとも、外部供給式か……外部供給式と仮定した場合……どうやって供給を……無線か……)
そこが、火力で破壊しないキモに思えた。
(探査した限り……魔力子の自己補充機能があるとは判断できない……無線式ならば、魔術師が放った魔力子を受けるアンテナかレセプターに相当する部分……あるいは部品があるはず……)
そこを破壊してしまえば、ただの無機質に戻るはずと推察された。




