第4章「ほろび」 3-4 未知世界探索の偽装
「なに」
「ストラさんは、どうしてそんなに、金を稼ぐんですか?」
「?」
プランタンタンとペートリュー、思わずフューヴァを見た。
何を聴いてるんだ? という顔だ。
ストラが、即答した。
「みんな、お金があったほうがいいんでしょ?」
「……!」
今度は、三人がストラを凝視した。唖然とする。
(あ……あっしらのために……!?)
プランタンタンがもう、涙ぐむ。グイグイと両手で涙をぬぐい、歩きながら嗚咽を漏らし始めた。
「で、でも、どうして、アタシたちなんかのために!? ストラさんに、何の得があるんですか!? だって、命をかけて戦っているのは、ストラさんなんですよ!?」
「よくわかんない」
「そんな……!」
プランタンタンは確かに、ストラの記憶が戻らないうちに利用できるだけ利用しようと云った。
そうは云ったが、実際はストラの言葉に感涙を流している。
もっとも、ストラは単なる「未知世界における潜伏擬装作戦行動中」なだけで、自身では命を懸けて戦っているつもりもなければ、何か目的があって稼いでいるわけでもない。それどころか、ストラのほうこそ、潜伏兼探索偽装行動のためにたまたま遭遇した三人を利用しているにすぎない。世界を変えるほどの戦いをしているはずなのだが、ストラにとっては潜伏行動の一環に過ぎないほどの、とるに足らない戦闘だ。三人のために金を稼ぐことが、未知世界探索の偽装になると判断しているだけだ。
「分かりました」
フューヴァ、何事かを決心し、何度もうなずいた。
テントへ戻り、兵士たちの騒めきや激しく移動する音を聴きながら寛いでいると、夕方前にラグンメータの使者が来た。食事かと思って、横になっていたプランタンタンとフューヴァが体を起こすと、それは前払い金を持ってきた兵士だった。
「3万トンプの金貨と、2万トンプ相当の宝石類です、お確かめを」
この戦争で金相場は乱高下しているし、宝石を正確に鑑定できる者は三人の中にいない。ラグメータを信じて受け取るほかは無く、また5万トンプは目安といったところだ。
プランタンタンは頑丈な革袋を開けて、金貨を確かめた。マンシューアルの金粒貨幣と、フランベルツ金貨が混じっていた。金には違いないが、両貨幣は金質も異なるし、これが総額でいくらになるのかはよく分からない。
また、別の袋の中の宝石類も確かめた。それっぽく手にとって光に透かして見る。
「ホンモノか?」
「まあたぶん……でも、いい色をしてまっせえええ~~~ゲッシッシッシシシ……」
プランタンタンは山岳エルフ達の掘る宝石類を見たこともあるし、宝石鑑定を習ったこともある。まったくの素人というわけでも無い。
もっとも、これも金額までは分からぬ。
「確かに、受け取りました」
ストラが云い、
「で、では、いつからあの魔法の巨人を……」
「いつでもけっこうです。今夜がいいですか、明日の朝がいいですか」
そう云われても、兵士には分からない。確認します、と、走って戻った。
「いよいよでやんすね……」
兵士を見送り、プランタンタンがつぶやいた。
「三人は、すぐにここを脱出して」
「えっ?」
皆、ストラを凝視する。
「まっ……まさか、ここもギュムンデみたいになるんですか?」
「いや、なる可能性は少ない。敵魔法使いと直接戦闘をする必要が無くなったから。いちおうだけど」
「だったら……」
「でも、何が起こるか分からないから。念のため、避難を推奨」
「…………」
三人とも、ストラに逆らってまで残る理由は何も無い。
「じゃ、じゃあさっそく逃げるでやんす……でも、どこに逃げりやあいいんでやんしょ?」
「ガニュメデ周辺村落の一つで、スルヴェン地方へ向かう街道沿いにスイシャールというところがあるから、そこで待機していて」
「スイシャール……」
三人が顔を見合わせた。




