第4章「ほろび」 3-1 ストラの帰還
などという話が、補給隊の最前列から最後列までひっきりなしに伝わっていた。その日、やっとスラブライエンを出発した第十隊と十一隊ですら、出発前からその話で持ちきりだったほどだ。
円盤達を周回させながら、ストラは丘の上を丸一日動かなかった。
その翌日の昼過ぎに、先頭を行く第一隊に、ラグンメータからの急使が到着した。
「補給部隊護衛の任に就いている、魔法戦士のストラ殿は何処か!?」
いずこかと云われても、補給隊の人々は直接ストラを見ていないので、とうぜん分からぬ。
その代わり、二日前の一瞬の迎撃戦闘を我先にまくしたてた。前列なので、ジャガーノート戦車隊が全滅した時のものだ。
「わ……分かった、分かったから! そのストラ殿を探している! 緊急招集だ!」
しかし、どこにいるのかは誰も知らない。
急使は舌を打ち、補給隊とすれ違いながら街道をスラブライエンまで逆走した。
「ストラ殿、ストラ殿は何処!」
馬上でそう叫びながら、ひたすら馬を飛ばす。
一方、魔術による伝達カラスもストラを探して飛び回っていた。
その急使と魔法のカラスの両方を、ストラが三次元広域探査で探知。
我々で云う午後二時半ころ、やおら立ち上がった。
ペートリューとプランタンタンは昼寝をしていたが、色々と考え事をしていたフューヴァがそれに気づいた。
「ス、ストラさん、出立ですか? どこへ?」
「迎えが来ました。ガニュメデへ向かいます」
フューヴァが、あわてて二人を起こす。
「起きろ! 出立だ! プランタンタン、新しい仕事だ、カネが待ってるぞ!」
「御金サマでやんすか!? どこどこ!?」
プランタンタンが飛び起きた。
「ペートリューも! 新しい酒を買いに行くぞ!」
「行ッきますぅうう!!」
フューヴァは寝ぼけている二人を急かし、荷物を片付けて馬の背に括りつける。
ほぼ同時に、カラスが丘の上のストラを首尾よく発見し、一直線に降りてきた。
その腕にカラスをとまらせ、ストラ、
「ストラです」
「ストラ、オレだ!」
カラスの身体全体から、ラグンメータの声がした。高価で高級な、相互通話の伝達カラスだ。
「聞こえます、どうぞ」
「今すぐ戻ってこい!」
「補給部隊護衛任務は」
「解除だ!」
「分かりました。ここからなら、二日で行けます」
「なんとか持ちこたえる! 頼んだぞ!」
それを、三人も聞いていた。
「前線へ戻るんですか?」
「うん」
「新しい仕事でやんすか?」
「たぶん」
「別払いで請求できやすかね?」
「たぶん」
「お酒……お酒は、どこで買うんですか?」
「ガニュメデの手前に幾つかある村の一つに、醸造所があるから、そこで」
「じゃあそこへ寄ってから!」
「うん」
云うが、ストラがパッと毛長馬にまたがり、丘を街道とは反対のほうへ向かって下りた。
急いでフューヴァが馬に乗り、プランタンタンを引っ張り上げると後ろに乗せ、後に続く。
「ペートリュー、遅れるなよ!」
モタモタと馬に乗っていたペートリュー、括りつけてある酒樽に足をひっかけつつ、なんとか続いて丘を下り始めた。
その後、凄まじい速度で円盤群が戻ってきて、ストラは馬を走らせながらテトラパウケナティス構造体を吸収し、円盤たちは消滅した。
そのまま街道を外れて荒野をつっきって、きっかり、二日後……。
ラーファリンデ村というところでペートリューの酒を含む食料や水を補給しつつ、四人は本陣でラグンメータやピアーダと再開した。




