第4章「ほろび」 2-6 自分の問題
(戦闘終了。各分離体は警戒モードへ移行します)
数分とかからずガルスタイのジャガーノート隊を瞬殺したストラ、闇の中で片膝を抱えて座ったまま、警戒任務に戻った。
消えかけた焚火の側では、プランタンタン達が爆睡していた。
ところで、ガルスタイだが。
色々と理由はあるし、他にやり方もあったのだろうが、結果として補給部隊を襲ったジャガーノート遊撃隊は、ガルスタイの完全操作ではなく自律行動・自動攻撃だったので、帰ってくるまで動向が把握できない術だった。
それは、遠隔操作をするには膨大な魔力と術への集中が必要であり、グレイトルとの様々な打ち合わせに支障が出るためと、ゴーレム軍団を動かす魔力が少なくなるのと、まさか撃退されるとは思ってもみなかったためだ。
つまり、ガルスタイはストラの存在を、まったく知らなかったことになる。
ギュムンデは消滅してしまい、スラブライエンには数日しか滞在せず、その活躍の大部分はマンシューアルだったので無理もない。
奴隷時代の習慣で夜明け前に勝手に目が覚めるプランタンタン、まだ眠っているペートリューとフューヴァの横で、熾火を確認する。湯を沸かさなくては。
と、ストラが寝る前に見た片膝を抱えたままの姿勢で同じ場所に座っているので、
「だ……旦那、寝ないで見張ってたんでやんすか?」
「いや、寝たよ」
それはもちろんウソだったが、プランタンタンはホッとした。
しかし、主人を働かせ自分は寝こけていて申し訳ない……という感情ではなく、流石に働きすぎではないかと心配したのだ。ストラに倒れられては、自分が困る。(倒れないが。)
「旦那、補給部隊は、無事で?」
「うん」
プランタンタンは、敵が襲ってこなかったか? という意味だったが、ストラの回答は襲ってきたけど撃退した、という意味である。
「そりゃあ、よござんした。いま、何か用意しやすんで、ちょいとお待ちを」
手早く熾から新しい火を起こし、銅のポッドを石組みの簡易竈で直火に当て、湯にする。同時に堅パンを小枝の串に刺して軽く炙った。
その香ばしい匂いに、フューヴァも目を覚ます。
「あ……いつもすまないな、プランタンタン」
ギュムンデでの夜の職業上、こちらは完全に夜型だったフューヴァは、気を抜くとすぐ昼夜逆転するし、未だに朝は苦手だった。
「いいんでやんすよ」
「よかあねえよ」
フューヴァが眼をこすった。
プランタンタンはこうして野外ではたいていのことはできるし、金感情や交渉も得意だ。ペートリューは、一度も使ったところを見たことがないとはいえプロの魔術師だし、その鯨飲が一藝になるのを思い知った。
(マジのマジ、大マジで、なんにもできねえのは、アタシだけだぜ……)
別に、ストラや二人の役に立ちたいという思いがあるわけではない。最初から、そんな集まりではない。
ただ、こんな単なる金魚のフンで「御家再興」とやらが成るのかどうかが問題だ。
自分の問題なのである。
(クソッ……!)
その自分へのイラつきが、イビキをかいて寝ているペートリューについ向かった。
「オラ、ペートリュー起きろ! いちおう軍務についてるんだぞ!」
揺さぶるも、まったく起きない。
「あ、ペートリューさんは、こうしたほうが早いでやんす」
云うが、プランタンタンがペートリュー愛用の水筒のふたを開けてワインの匂いを嗅がせた。
「さけぇエ! お酒飲むぅ!」
いきなり起き上がって水筒を奪い取り、グビグビと飲み干したので、今更ながらフューヴァは目をむいて絶句した。
3
補給隊の前方と後方で戦闘があったので、部隊全体の進行が少々滞ったが、被害そのものはほとんど無かったので、昼までには元通りになった。
「敵の魔物が襲ってきやがってよ」
「見た見た、ピアーダ将軍の雇った凄腕の魔法戦士が、魔法で撃退したんだ!」
「あの魔物、ガルスタイ様の魔物だろ!?」
「ガルスタイちゅったら、フランベルツの魔王だぜ!!」
「その魔王の造った魔物をよ、一撃よ!」
「大爆発でよ! こーんな、炎が!!」
「すっげえよなあ」
「オレも観たかったなあ。音は聴こえたんだけどなあ」




