第4章「ほろび」 2-4 襲撃、ジャガーノート遊撃隊
「ヴィヒヴァルンは、白ワインとエールが、本当に美味しいんですよねえ~」
うっとりしながら、フランベルツの安ワインをゴクゴク。
「マンシューアルの焼酎は、まずかったのか?」
「うーん……」
そう唸ってやや考えこみ、
「きっと、王様が飲むような高級なものは、もっと美味しいと思うんですよね。でも、どっちにしろ薫りが苦手……」
あの、マンシューアル兵ですら吐きそうになる消毒用薬膳焼酎をガブ飲みしておいて、何を云っているのかとプランタンタンとフューヴァは呆れ果てた。
「ま、まあ、そんじゃあ、この傭兵仕事が終わったら、フィーデ山を越えてヴィヒヴァルンへ行きやんしょう。旦那、ストラの旦那……」
「いいよ」
少し離れたところで片膝を抱えて座り、闇を凝視していたストラが即答。
これで決まった。
そして、この何気ない決定が、ゲーデル地方とフランベルツ、ヴィヒヴァルン南部から一部マンシューアル方面にかけて、甚大な被害を与えることとなる。
その、ストラ。
ガルスタイの補給部隊襲撃魔術遊撃隊と円盤防衛隊が、激しい戦闘を繰り広げていた。
ゴーレム軍団を見てわかる通り、ガルスタイの専門魔術は疑似生命体構築付与操縦魔術法だ。
遊撃部隊も、魔術で作り出した半自律式疑似生命体の魔物の軍団だった。
その意味で、ストラの円盤とまったく同じだった。
ジャガーノートである。
鉄張りの巨大な木製車体に四から六輪の鉄の車輪がついており、車体先端には爪や角を模した巨大な衝突角や、竜や魔物の顔を模した模型がついている。そのままだったら祭の山車みたいなものだが、膨大な魔力と術法により疑似生命を与えられ、自律行動をとって魔術師の命令や指示のまま敵を襲う。物量差による衝突攻撃は、対人攻撃としては絶大な効果を誇る。大型トラックによる無差別轢き逃げテロ攻撃か、装輪戦車による蹂躙攻撃みたいなものだ。さらに、車体に仕こまれた火器や魔術による火炎攻撃もある。
それが五輌、時速でいうと60キロほどで昼夜を問わず平原や森林を突破疾走し、ラグンメータ隊後方の補給部隊へ一直線に向かった。
さらに、飛竜の姿を模した飛行機型のジャガーノートも航空攻撃を行う。木と鉄と革で造られ、見た目はグライダーと云うのも烏滸がましい、とても揚力を得て空に浮くような姿と重量ではないが、魔力で飛行する。その翼に、飛翔魔法を得ているのだ。
それが腹中のカーゴに原始的な炸裂弾を抱え、補給部隊へ爆撃を敢行する。
また、仰々しい模型の竜の口からは、火炎放射も行う。爆撃の後は、その炎で対地攻撃するのだ。
そのジャガーノート・ワイバーンも五機、大型の鳥が飛ぶような速度でスラブライエン方面まで向かい、まっすぐ補給部隊の後方を襲う。
それらが襲ってきたならば、100やそこらの護衛がいたとしても、補給部隊は壊滅していただろう。その後、背後からラグンメータ軍を挟撃する、あるいはスラブライエンを襲うという戦法もある。
ジャガーノート部隊はより攻撃効果を高めるため、部隊が静止する夜間を狙って攻撃した。
だが、ストラの円盤隊が早期発見。
円盤2と3が広域警戒に入り、円盤1がジャガーノート戦車隊を、円盤4が同ワイバーン攻撃機隊を要撃した。
先に接敵したのは、最後方のワイバーン攻撃隊だった。飛行している分、到着が早く、夜になるまで上空待機していた。
そして夜陰に紛れて降下。
街道沿いに転々と光る補給隊の野営めがけて、一直線に並んだ。
エンジン音も何もないのだから、まったく気づかれない。ヒュウヒュウという風切音だけだ。
腹の、木製カーゴの蓋が開いた。
卵を抱いているように、一機につき20発の炸裂弾が吊るされている。
魔術的機構で、一番機から順に導火線に着火する。
上空50メートルからの自由落下で、地上10メートルほどで炸裂するように計算されている。
爆轟効果ではなく、瓦礫や破片が飛び散る散弾効果で人馬を殺傷し、かつ焼夷片が降り注いで荷馬車を焼くのだ。
まさに、爆撃が開始される瞬間。
カッ、と一条の光線が空を裂き、一列に並ぶ五機のジャガーノート・ワイバーンを薙いだ。
一瞬で五機が爆発し、爆音とともに真っ赤な炎に包まれた。




