第4章「ほろび」 1-4 ゴーレム軍団
第二陣として後方を進んでいたが、補給部隊の掩護と慣れない道に進軍が滞っていた。
それが間に合ったのだ。
しかも、ラグンメータはサンタールとンスリーと共に前線で軍を率い、まっすぐガニュメデ市に襲いかかった。
いま、ガニュメデの守備隊は近衛兵数百だ。
ひとたまりもない。
「グレイトル様アアあ!!」
伝令を待つまでも無く、グレイトルは奥歯が折れるほど苦虫をかんだ。
(……やられたァ……!!!!)
全身に水をかけられたように、汗が噴き出た。
(あと半日……!! いや、せめて昼前に攻めていれば……!!!!)
だがもう、どうしようもない。
時間は、戻らないのだ。
「退却だ!! 蛮族どもより先にガニュメデへ入れ! 籠城するぞ!!」
一気に流れが変わり、一斉にグレイトル軍が反転した。
「いまだ、押せ押せ! ラグンメータ殿と挟撃しろ!」
ピアーダも叫びまくった。ピアーダ軍が追撃のため、急いで陣容を立て直す。
ここで、グレイトル軍が「総崩れの敗走」なら、そのまま壊滅していただろう。
だが、グレイトルの恐ろしさは、撤退戦も見越して作戦を立てており、しかも以前から訓練も積み、今それが活きたことだ。
「決死隊、ピアーダ軍を押さえろ!!」
一部隊がさらに反転し、追い上げるピアーダ軍の先陣に死に物狂いで突っこんだ。
その迫力と勢いに追撃モードのピアーダ軍の先陣が速度を落とし、それが後方に伝わって渋滞した。
「決死隊など無視しろ! 追え追え!!」
ピアーダの命令を待つまでもなく、追撃隊の各部隊長らが叫びまくった。
その隙に、グレイトル軍が一目散に街へ迫る。一部が取り払われているとはいえ、要塞化した城塞に入ってしまえば防御力は桁違いだ。
「ラグンメータ、間に合わないぞ!」
サンタールが叫んだ。本来であれば、ガニュメデに迫るラグンメータ軍が途中から進路を変え、動揺するグレイトル軍を後ろから挟撃するという作戦だった。また、状況によってはそのまま市内に突入し、フランベルツ城を落とす。
それが、撤退するグレイトル軍の速いこと!
目の前を、川のように流れて行く。
「なんて指揮だ!」
懸命に角馬を走らせるラグンメータも感嘆した。
ついにグレイトル軍は撤退に成功し、どんどんガニュメデ市街地に入るや、訓練通りに城や城塞に別れた。
だが、まだ後方の三分の一ほどが走っている。先頭が速すぎて、陣が伸びた。
その後方部隊に、ラグンメータは狙いを定めた。
「少しでも敵の数を減らせ!」
そこで、城の塔の上から「フランベルツの魔王」魔術師ガルスタイが都市防衛魔術を作動。
杖の先の、深い群青色のシンバルベリルが光った。
この数千人分の膨大な魔力を使って、時間をかけて構築していたのだ。
城塞の壁の一部がガバガバとはがれるや、レンガ人間というか、岩人間というか……魔力で動く身長三メートルほどの巨人となって前に出る。
さらに、市内のあちらこちらにいつの間にか建設されていた、市民はただの使われていない空き倉庫として認識していた小屋が次々に動きだし、変形してそれらも見上げるような人型の物体となって歩き出した。
これらは、云わばゴーレム軍団である。
その数は、二、三十はいるだろう。
「なんじゃあああありゃああああああああ!!」
既に街へ突入し、街路を駆けていたマンシューアル騎馬隊先陣、壁となって立ち塞がったゴーレムを前に度肝を抜かれ、流石に急停止。
そこに後ろから突っこんできた軍団が重なって、大混乱となった。
「いまだ、撃て撃て!!」
まだ息を弾ませるグレイトルの命令一下、防衛用に秘匿していた鉄砲隊が城塞の上から銃弾をマンシューアル軍にむかって釣瓶撃ち。動きが止まっていたマンシューアル軍はまともにそれらを食らい、一部の先陣騎馬隊は壊滅した。さらに、城砦の上や建物の合間から弓部隊も雨のように矢を降らせた。
そしてゴーレム達が動揺し、恐怖するマンシューアル軍に襲いかかる。踏みつぶし、蹴散らし、人間が何十人でも持ち上げられぬ巨大な鋼鉄の剣を、周囲の家屋を破壊しながら強引に振り回して薙ぎ払った。




