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第1章「めざめ」 3-1 蟒蛇

 魂魄移植型超絶アンドロイド兵器であるストラは、しかし、機械式ではなく、かといって生体兵器でもない。また、それらを合わせた半有機サイボーグ生命体でもなかった。一種の超極小凝縮エネルギー塊の集合体で、テトラパウケナティス構造体というナノレベルの超極小エネルギー結晶が無数に集まって人型を成している状態だった。その超極小エネルギー構造体表面をプログラムが走るため、理論上は亜光速演算処理速度をもち、我々の単位で云えば数ヨタフロップスに相当するとされている。元々は、光子コンピューターのための技術だった。


 テトラパウケナティス構造体は、次元横断プログラムにより空間を折り曲げて内側にねじこむ特性があり、エネルギー量が多ければ多くなるほど超極小になるという特徴を有している。そのため、理論上は超新星爆発にも匹敵するとてつもない量のエネルギーを超極小構造体内に閉じこめ、溜めることができた。その驚異的な処理速度と膨大なエネルギーを使用して重力制御から次元横断制御までをこなし、凄まじいレベルの熱プラズマ攻撃も強力な磁場制御で完璧に操る。人間型なので各種の格闘や武器戦闘も対人ではほぼ無敵であり、まさに超絶兵器というに相応しい。ストラの敵は、同型のテトラパウケナティス超絶兵器以外、理論的に、無い。


 (天体観測……まったく未知の星位置……どこの宇宙のどの位置なのか、まったく不明……次元観測もまったくデータ無し……)


 ストラは、ぼんやりと重力レンズ越しに天を眺めた。



 3


 翌日、まるで数日前に買ったかのように硬い黒パンと、もっと硬く石みたいなチーズの粗末な朝食を食べ、二人は外を出歩いた。粗末と云っても、やはり、プランタンタンにしてみればご馳走だった。何せ、朝から食物を摂取できるのだから。


 その後、職探しに表へ出る。


 「なあに、こういった交易の町はね、小せえなら小せえなりに、くだらねえいざこざ・・・・がつきものなんでさあ。そういうところに、御金様おかねさまにおい・・・がするもんで……」


 「よくわかんない」

 裏通りから表通りに出ようとしていた、そのときだった。


 道端に転がっていた死体……と思った浮浪者がいきなり起き上がって、ストラにすがりついてきたのだ。


 「おさけちょおおだいよおおお!! おさけえええええ!!」

 「な、なんでやんす!?」


 プランタンタンが驚いて固まりつき、その残り酒とゲロの臭いに顔をしかめた。自分が綺麗になると、他人の不潔さが気になるようになる。


 女だ。ボッサボサの赤茶色の長い髪と、うすよごれた魔法使いの職能ローブ。プランタンタンは、見覚えがあった。


 (あれ、こいつ、昨日の!?)

 「おさけええええ!! いいから、さけだあああああ!!」


 前髪の合間からのぞく眼の焦点が、合っていない。やたらと胸も大きく、体つきは良いが、栄養が行き届いているというより、酒太りだ。


 「旦那、そんなヤツの相手をしちゃいけませんよ! ほっときな!」


 プランタンタンが云う前に、荷車を引きながら通りかかった町の者がストラへ向かって声を張り上げた。


 「……誰なんです!?」

 プランタンタンの質問に、荷車のおやじ、


 「ダンテナから来てる、代官所付の派遣魔法使いなんだけど、ご覧の通り酒びたりでさ。他の魔法使いたちからも見放されて、クビになったも同然で」


 「はあー~……」

 眉をひそめて、プランタンタンが腰の抜けたままストラの脚にすがりつく女を見やった。

 「おさけくださああああい……少しでいいんでええええ……酒えええええ……!!」


 「ちょいと、ちょいとあんた! こっちは暇じゃねえんで。酒なんてもんはね、自分で稼いだ金で買いなさいよ。こっちはね、酒なんざ、持っていやせんぜ」


 「酒ねええのか、このやろううううう!」


 いきなり掴みかかってきたので、驚いてプランタンタンが後退あとずさった。女はそのまま地面へ倒れこみ、ウンウンと唸りだす。二日酔い……いや、まるで五日酔いだ。


 「なんなんでやんす、こいつあ……ひょっとして、酒が抜けたら、凄腕の魔法使いなんでやんすかい?」


 「ぜえーんぜん」

 おやじが肩をすくめ、荷車を引いて行ってしまう。プランタンタンはあきれ果て、

 「とんでもねえヤツもいたもんだ。さ、旦那、行きやしょう。かまってられやあせんぜ」


 「病状は、完全にいわゆるアルコール依存症。しかし、アルコール分解酵素は標準の十数倍……まさに、蟒蛇うわばみ。無限に酒を飲み続けられる」


 「なんでやんすか?」

 「なんでもない」

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