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第4章「ほろび」 1-1 選帝侯フランベルツ地方伯

 第4章「ほろび」

 

 1


 「ピアーダ将軍謀反」


 この一報がガニュメデに届いたのは、ピアーダがスラブライエンを出発した翌日だった。


 この世界において、この速度で伝達されたのには理由がある。

 もちろん、魔法だ。


 報告したのは、フランベルツ地方伯の叔父にして右腕にして執政、そして事実上の領主とも噂されるグレイトルが密かにスラブライエンに紛れこませていた間者の一人であった。シュベールもその一人だったが、シュベールではない。一般人のふりをした魔術師だ。伝達魔法のカラスが、一直線にガニュメデへ飛んだ。


 既に、ピアーダとラグンメータの会談が極秘裏に行われ、スラブライエン市内はにわかに臨戦態勢となったのだが、逐一カラスが飛んでいた。ただ、間者は商人に紛れていたので、詳細は良く分からなかった。ラグンメータとの決戦に及ぶという噂もあれば、謀反を起こすという噂もあった。魔術師は、その両方を報告した。


 そして、

 「敵はガニュメデにあり!」


 というピアーダの宣誓によって、初めてスラブライエン市民にも状況が鮮明に示された。


 すかさず、カラスが飛んだ。

 それらのカラスは、もちろん全てストラが把握していた。

 が、特に報告義務も無く尋ねられもしなかったので、無視した。

 「ピアーダがムホンン!?」


 選帝侯フランベルツ地方伯は38歳の英才だったが、都生まれ都育ちで神経質、29歳で伯爵位と領地と財産を継いで赴任するまで、ただの一度もフランベルツを訪れたことのない人物だった。妻も都に住む貴族の子女であり、十代の子供たちは今も留学という形で帝都に暮らしている。


 そのようなわけで、田舎の治世に対し一切の興味も情熱も執着も無い。妻も、早く都に帰りたがっている。一時はホームシックで、妻が深刻な鬱病になった。それもあって、ますます地方伯の「地方嫌い」は顕著になった。


 従って、亡き母親の弟である叔父にあたる執政のグレイトルが、事実上の領主だった。とっとと地方伯位を返上あるいは息子に代を譲って、都で年金生活をするのが夢という人物だ。別に叔父に伯爵を譲っても良かったが、そこは流石に、息子に譲るのが本筋だ。


 33歳の時、叔父であるグレイトルにそのことを打ち明けて、都に帰ろうとしたことがある。


 その時、長男は12歳だった。


 しかしグレイトルは、皇帝(と、その取り巻き)がそんなこと・・・・・を許すはずがないと懸命に説得を繰り返して翻意させた。


 実際は、その逆だ。


 いきなり12歳の息子に爵位を譲るなどと云い出せば、理由を問われる。当たり前だが……早く隠居して帝都に帰りたいから、などというのは、理由になるわけがない・・・・・・・。フランベルツ家に地方伯の資格無しとして、爵位剥奪、御家お取り潰しの運命が待っているのがオチだ。


 まして、爵位を返上などというのは論外である。


 皇帝を出すのことのできる権利を持つ六家の「内王家」の中から、十二選帝侯が皇帝を選ぶ連邦に近い帝国において、皇帝の権力など、有力諸貴族に毛が生えたようなものであった。


 では誰が権力を保持しているかというと、選帝侯である。他に、いくらでもその名誉と(ちゃんと使えば)実権のある選帝侯職を欲しがる貴族がいる中で、フランベルツ家が自ら伯爵位を返上したいなどと云い出せば「どうぞどうぞ」とばかり、それを口実に職能位である選帝侯位を含めて身ぐるみはがされ、没落するに決まっている。


 そもそも「地方伯」は辺境防備を任される強力かつ重要な名誉と実務ある爵位であり、けして地方に飛ばされた伯爵などという意味ではない。返上したいという発想自体が、唖然茫然の代物なのだ。しかも、当然のことながら返上すれば領地は失われる。


 当代は、帝都で育ちながら、そういうこと・・・・・・が全く分からない人物に成長した。

 「なんでピアーダが謀反など起こす!? 叔父上は、何をしていたのだ!?」

 「ハッ……!! 申し訳も……!!」

 グレイトルが、平身低頭で汗を拭いた。

 「なんでもいい! なんとかしろ!」

 「おまかせを!」


 そう云って下がったグレイトルだったが、執務室を出る前にチラッと地方伯の様子を伺うと、謀反は大変だがこれはこれで使えるのでは? という笑みを浮かべているのが分かった。


 つまり、これを機に責任を取って引退を申し出て、都へ帰ろうというのである。

 (謀反の鎮圧に失敗して、そんな甘い処断で済むわけがないだろうが……!)

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