第18章「あんやく」 2-13 現場の魔術
「これは……」
日の光に尖塔が煌めき、壮麗なはずの大神殿が、まるで悪魔城のようなおどろおどろしさに満ちている。窓も真っ暗で、
「これ、生きてる人、いるの?」
フローゼがそう云って肩をすくめた。
「難しいでしょうね。人間が生きていられる魔力じゃないですよ」
リースヴィルも、厳しい表情だった。
「生きている人間がすでにいないのなら、遠慮することはないじゃないか!」
オネランノタルがそう云い、魔力を噴き上げた。
「どう攻める? リースヴィル!」
「まずは正攻法で!」
リースヴィルが特大の火の矢を4発出し、大神殿の正面に叩きつけた。凄まじい爆発が起き、衝撃波と熱波が3人を襲ったが、魔力の渦に何の変化もなかった。
「私もやってみよう!」
オネランノタルも大量の魔力をスパークさせ、純粋に熱線を放った。熱線が魔力の渦を少し押しこんだように見えたが、熱が拡散し巨大な爆破を起こしたころには元に戻った。
「ぜんぜん効かないじゃない!」
フローゼが呆れた声を発した。
「正攻法じゃ、無理みたいですね」
呆れつつ、リースヴィルも厳しい顔になる。
「正確には、我らの攻撃力じゃ無理ってことだ。ストラ氏なら……」
オネランノタルが、そう云って大神殿を四ツ目でにらみつけた。
「でも、魔王が出るにはまだ早いんでしょう?」
「こんなていどでいちいち魔王が出張っていては、仕事にならないと云っている! フローゼ! 私たちはもう魔王軍だぞ! 組織だ、組織戦をやっているんだ! ストラ氏だけで救世とやらが成るのでは、苦労は無い! リースヴィル、攻め方を変えるぞ。直接、魔力の波をかき分けてみよう!」
云うや、オネランノタルが魔力凝縮法で疑似物質を生成、巨大な掘削アームのようなものを出した。この魔力凝縮法は、リースヴィルには不可能だ。
だが、補佐はできる。
「行くぞ!」
オネランノタルが、大神殿を中心に渦巻く魔力に突っこんだ。
巨大なシャベル状のアームが渦の表面に跳ね返され、オネランノタルが衝撃で跳ね飛ばされそうになったが、何とか耐えた。そのまま、強引に魔力渦へ掘削機を食いこませる。
「思っていたより硬いな!」
オネランノタルがそう叫んだとたん、バギバギと音がして、アームの先端が破壊され始めた。リースヴィルが、すかさず魔力を供給する。モーション映像のようにアームが再生し、さらにオネランノタルが魔力をかき分けようと深く差し入れた。
とんでもない衝撃が、アーム全体を襲った。
「なんて力だ!!」
オネランノタルの驚愕と共に、アームが真っ二つに折れて元の魔力に戻り、拡散。渦に吞まれて消えた。
「……クソッ!!」
怒りで四ツ目を光らせ、オネランノタルが歯ぎしりした。
「私がつっこんでみる」
そう云って、2人の前にフローゼが出た。オネランノタルが四ツ目を丸くし、
「そうか……魔力阻害装置で!」
フローゼがニヤッと笑い、
「間違っても、私の前には出ないでよ!」
「オネランノタル様、では、我らはフローゼさんの後ろで、通路を補強する壁のようなものを作りましょう!」
「よし、いいだろう。だが、あの魔力量に力で挑んでも到底かなわないことは立証されている。なにか……魔力反発効果を応用した術を編み出せ! 臨機応変にな!」
「現場の魔術ですね!」
リースヴィルも、緊張の中に不敵な笑みを見せる。
「いい!? じゃ、いくよ!」
フローゼが魔力阻害装置を作動! 効果を前方へ集中しつつ、円錐形に自身を覆った。まるで、弾丸列車の先頭車両だ。
そのまま、走って魔力の渦に突っこんだ。
とんでもない力で押されたが、阻害効果が魔力が消失せしめ、トンネルを形成した。
「ドンピシャだ! 続け!」
オネランノタルとリースヴィルが、フローゼの後に続く。
だが、2人とも阻害効果に触れるわけにはゆかない。
リースヴィルが、トンネルを掘削するシールドマシンが内側からトンネルの壁を補強するように、魔力で板を作り、フローゼの空けた穴を内側から片っ端に固めた。
「行ける! そのまま突っ走るんだ、フローゼ!」




