第18章「あんやく」 2-12 西方への流星
一体、だれが……という思いだったが、おそらく皇帝自らがそうしたのだろう……というのは、さすがのレクサーン王も声に出せなかった。
「陛下!」
「陛下、御決断を!!」
汗だくとなったレクサーンが、顔を上げた。そのまま胸に手を当てて最敬礼し、
「魔王様! この中継地点を破壊し、冬の日の幻想を御護りくだされ!」
「いいよ」
ストラがそう云い放ち、
「しかし、神殿に勤めている人々は、なるべく救出しますが、場合によっては救出不可能なことも考えられます」
グ……と、王が小さく息を飲んだ。
「か……かまいませぬ……!!」
「分かりました。では、さっそく出発します」
「待ってくれ、ストラ氏。中継地点の破壊は、私たち3人でいい。ストラ氏はここで、ゾールンの攻撃に備えるんだ」
オネランノタルがそう云った。
「ゾールンの攻撃とは……!」
誰かが動揺した声をあげたが、オネランノタルが容赦なく、
「私たちの攻撃が間に合わなかった場合、冬の日の幻想は護れない。その場合、ゾールンを封じていた地で何が起きるのか……ゾールンがすぐに出てくるとは考えにくいが……何かに対処するにしても、ストラ氏がいたほうがいいと思う。最悪に備えてね」
「わ、分かりました……!」
レクサーン王も唾を飲み、深呼吸して気を落ち着ける。
軍議が終わり、すぐさま行動に移った。
フローゼも人間ではないため、高濃度魔力障害が発生しない。オネランノタルが容赦のない魔力濃度で高速転送をかけ、王城の敷地から3人が西方へ流星のように飛んだ。
それを、以前も滞在してアーリャンカを匿った部屋の窓より、フューヴァとプランタンタンが見送った。
3人が行ってややしばらくしてのち、3度目の魔術干渉攻撃が始まった。
王都の魔術防御が発動し、王都上空がどす黒い雲のような渦巻きに覆われ、稲妻が縦横に走りながら重低音が王都全体に響き渡った。
「なんだ、この音はよ……!」
フューヴァが耳をおさえた。
(こんなのが続いたら、王都に住んでいる人が先に参っちまうぜ……!)
転送中のオネランノタルも、凄まじい勢いで魔力が王都方向に流れるのを確認した。
「また干渉攻撃だよ!」
「こんな規模の魔力攻撃が、人間に可能なんでしょうか!?」
リースヴィルも驚くほかはない。
「イェブ=クィープにも魔王がいるっていうのかい!?」
「しかし、聖下はいないと!」
「そうだな、それに、逆に魔王ならこんなものじゃないだろうさ……!」
確かに、そうかもしれない。リースヴィルは無言だった。
「とにかく、いまはその中継地点を早く破壊しなきゃ!」
フローゼが厳しい声で叫び、
「だね!」
転送と云っても次元移動ではなく、超々高速移動だ。人間なら亜音速が限界だが、オネランノタルはマッハ3ほどで高高度をぶっ飛び、ソニックブームをまき散らしながら凄まじい爆音と共に1時間とかからず目的地に到着する。
「あれだ!!」
確認せずとも、魔力が視える者には洪水による大渦めいて神殿を中心に平原に魔力が渦巻き、さらに竜巻のように吸い上げられて速度を上げて天に向かって流れている。その有様は、イェブ=クィープから古竜が襲ってきているかのようだった。
「これは凄い!」
上空で止まったオネランノタルが、四つ目を見張った。
「どうやって、人間がこれほどの量の魔力を制御しているんだ!?」
「分かりません……!」
リースヴィルも感嘆した。
「いいから、早く下りよう! それとも、あれに突っこむの!?」
オネランノタルの魔力で浮いているフローゼが云うが、
「バカ云うんじゃないよ、フローゼ! しかし……どう攻める!?」
「いったん降りて、至近距離から神殿を観察しましょう!」
リースヴィルがそう云い、慎重に地面に降りる。地面も嵐のように高濃度魔力が荒れ狂い、この3人でなくばとても近づけないような有様だった。




