第3章「うらぎり」 5-7 この戦争の後
「ようし、いっちょうやったるぜえ!」
「マンシューアルの将軍にも、いいところ見せてやるんだ!」
こんな調子である。また、
「報酬は、ぜんぶ宝石らしいぞ!」
「敵1人につきサファイア、10人でエメラルド、大将首でルビーだそうだ!」
などと、根も葉もない噂も広がっている。
ストラは、「ラグンメータ臨時司令官派遣ピアーダ将軍付特別任務兵」というよくわからない肩書がつけられ、月10,000トンプの他にピアーダから改めて働きに合わせて報奨金が出る契約となった。
「働きってさあ……具体的に、どんな働きだ?」
将軍のすぐ近くを進むストラの馬の後ろを歩きながら、フューヴァがプランタンタンにつぶやいた。
「さあ……。それも、そのうち命令が来ると思うでやんす。あっしらは、ストラの旦那の指示に従っていりゃあいいんでやんす」
「まあ、そりゃそうだろうけど、よ……」
そこで、ワイン樽を括りつけてある荷馬を引きながら、あいも変わらずグビグビ水筒から酒を飲んでいるペートリューをチラッと見つつ、フューヴァ、
「あのよ、この戦争の後のことなんだけど……」
「わかってるでやんす。仕事が終わったら……とっとと次へ行きやしょう。どうせフランベルツは負けて、ラグンメータの旦那が新しい王様だか総督だかになるんでやんしょう。そうなると、旦那は御払箱でやんす。ラグンメータの旦那の右腕として政治家をやるにしても、将軍になるにしても、暗殺やらをこなす裏の役目に着くにしても、今の値段じゃあ、高すぎると思うんで。だからって値下げもできねえし、邪魔になったストラの旦那を暗殺なんて、それこそ誰にもできねえことでやんす」
フューヴァが、ニヤッと鼻面をしかめて笑った。
「流石プランタンタンだぜ。そして、そうなると、狙われるのはアタシ達だ。ストラさんは、別にアタシらがどうなろうと知ったこっちゃないと思うんだ。でも、アタシは死にたくない」
「もちのろん、あっしもでやんす。まったくもって、そういうことでさあ」
プランタンタンが、馬上のストラの後ろ姿を見つめた。
「云い方が悪いでやんすが、ストラの旦那はまだ何も分かってないし、何も覚えてねえ御様子。酔狂で、あっしらと一緒にいてくださってるだけでやんす。何も覚えてねえうちに、うまく動いてもらいやしょう」
「しっかし、おめえもワルだなあ」
「フューヴァさんに云われたくねえでやんす。ゲヒッ、シッシッシッシシシシシ……」
プランタンタンが前歯を見せ、肩を揺らしながら歯の隙間から息を出し、いつも通りの笑みを見せる。
「どういう意味だよコイツ」
フューヴァもプランタンタンを小突きつつ、笑った。
「で、云いたくねえけど、アイツなんだけど、よ……」
フューヴァがもう一度、斜め前を歩いているペートリューを眼で指した。
「アタシはもう、面倒見きれねえんだけど」
「あっしなんか、最初から見てねえでやんす」
「ハッキリ云うね」
「こっちもハッキリ云うでやんす」
プランタンタン、フューヴァを見上げ、
「あっしらは、ストラの旦那が酔狂で飼ってるネズミみてえなもので。それが、ネズミ同士でチュウチュウ云い合ったところで、意味ねえでやんす」
フューヴァが、眼を丸くして息をのんでから、吹き出した。
「ちがいないや」
ガニュメデまで、六日ほどで到達する。




