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第18章「あんやく」 2-7 勇者

 「ごめん」


 フローゼは炎の女勇者という異名をとっていたとはいえ、ずっと単独行動でパーティを組んだ経験がほとんどないので、いまいち戦闘も自分のことしか考えない悪癖がある。パーティのリーダーというのは、プランタンタン達のことも考えるのは当然だ。ストラがいるから大丈夫だろう、というのは通用しない。


 「キッヒヒ……ずいぶん素直じゃないか。ま、代王がいても同じことを云ったろうがね」


 「そうね」

 納刀したフローゼが、3人に近づいた。 

 「大丈夫?」

 「なんだこりゃ、ひっでえな!」


 涙目で、フューヴァが周囲の煙を払いながら云った。

 「目に染みるでやんす!」

 プランタンタンも苦しそうだ。

 「舐めてかかってた。私の責任」


 「んなこたねえよ。こんな魔法があるなんて知ってたら、もっと離れてた。アタシらも、連中をナメてたんだ」


 フューヴァがそう云い、

 「なあ、ペートリュー! ふつうはお前が危険を知らせるもんだぜ!」

 「そうでやんす!」

 プランタンタンも抗議したが、ペートリューは、

 「そ、そうですかあ? あんな魔法、私だって知りませんよ……」

 と、まったく意に介さない。


 「もういいぜ……で、連中の残した食料や家畜は、どうすんの? 頂いて王都で売るのか?」


 「そいつぁいいでやんす!」

 まだ涙目のプランタンタンがそう叫んだが、

 「あっちに村がある。たぶんそこが襲われた」

 ぶっきらぼうにストラがそう云って森の奥を指さしたので、

 「……じゃ、返してあげましょうか……」

 フローゼがさっそく、馬の手綱を弾いた。

 「えー、返すんでやんすか?」


 「バカ、いちおうフローゼはノロマンドルの勇者なんだからよ、盗賊の真似事はできねえだろが!」


 フューヴァが、そう云ってプランタンタンを小突いた。フローゼが苦笑し、


 「勇者ったって慈善事業じゃないし……名より金を優先する勇者だっている。中には純粋な使命感や正義感で、弱者のために身を削って戦っていた人もいたけど……」


 「そんな勇者がいたとしたら、アタマがおかしいんだよ、そいつ」

 フューヴァがそう云い、

 「どうせ、死んだんだろ?」

 「そうね、みんな死んだ」

 フローゼが、少し遠くを見やって、そうつぶやいた。



 その日の夕刻前、意外と早く森を抜けた一行は、王都近隣の村というほどでもない集落の1つに到着した。常であれば、騎士団直下の代官所の管轄で、代官所の兵士が見回りに来る範囲内だった。そのため、村人の急報を受けた代官所の兵士2人が検分に訪れていた。


 「何者だ!」

 ゾロゾロを村に現れた一行を見やり、兵士が声を荒げた。

 まだ少し目の赤いフューヴァが物怖じもせず、

 「これ、このムラから盗られたもので間違いねえ?」

 などと云い、後ろの荷駄を親指でさした。


 「ああッ! ま……間違いないです!!」

 村人らが、心底安堵した表情かおで、一行に群がった。

 「旦那様方が、取り返して下すったんで!?」

 「ああ……」

 フューヴァがチラッとストラを見やり、ストラが小さく首を振ったので、


 「こちら、ノロマンドルの炎の女勇者、フローゼ様だ。勇者様の御慈悲に感謝するんだな。なに、安心しろや、王都に行く途中に、賊どものほうから吹っかけてきやがったんで、返り討ちにしたんだぜ。報酬とかは、いらねえから」


 「ええっ……!?」

 兵士らも含め、村の者らが意外にドン引きで一行を見やった。

 と、いうのも、


 「……ゲヒッヒッシシッシッシシシィ~~~~! そうは云いやしても、タダより怖いもんは、この世にねえでやんすからね! 逆に怪しまれるってえ寸法で!」


 もみ手に怪しさ満点の笑顔でプランタンタンが前に出てそう云うや、フューヴァは顔をしかめたが、むしろ村人らは少しホッとしたようだった。


 「勇者様と云えども、御金様がねえと生活に困るんでやんす。御寄附や御布施だけで食ってくほど、世の中はうまくできてねえんで。とはいえ、失礼ながらこの村の有様じゃあ、フローゼの旦那を雇うほどの御金様は出ねえでやんしょう。どうです、ここは、村の皆様方のこころざしってえことで……」

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